ファイナンス 2022年9月号 No.682
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4公文書管理についての回想など以上、財務省における公文書管理の2021事務年度の電子的管理に向けた取組等を概説した。ここで、公文書管理と筆者の縁などを述べてみたい。*17) https://www.suntory.co.jp/sfnd/prize_ssah/detail/1985sk2.html*18) https://www.mof.go.jp/public_relations/statement/other/20100312okinawa_danwa.pdf 財務省における公文書の電子的管理の取組等について ファイナンス 2022 Sep. 29域で「文書管理」という言葉が用いられた初めての事例であり、内容面でも先駆的な規程として評価することができる。(中略)意思決定手続きの適正性の確保に加えて迅速な事務処理―プロセス管理として理解された能率増進とを両義的に達成することが、今日まで続く日本の公文書管理における規範の原型であったといえよう」とし、その後60年代後半から70年代前半にかけて、大蔵省(そしてそれに続いた農水省)を模範例に「文書管理」規程が整備されたという。筆者にとって、「公文書管理」というものの重要性をはじめに認識したのは、国際法を割と真剣に勉強していたこともあって、学生時代に読んだ五百旗頭真氏(当時神戸大学教授)の「米国の日本占領政策―戦後日本の設計図」(上・下巻。中央公論社 1985年)であった。本書は、第7回サントリー学芸賞受賞作である。その選評で、細谷千尋氏は、「米国の対日占領政策の形成過程、あるいは戦時中の米国の戦後日本の処理計画の検討という問題については、ここ十数年来すぐれた研究成果が、日米双方において出されている。1972年、米政府が外交文書公開の30年ルールにふみきって、戦前から戦中にかけての機密外交文書の多くが研究者の目にふれるようになったことが、この点にあずかって力あったといえる。五百旗頭氏の著作は、一面において、これらの研究成果を充分ふまえて、集大成を試みたものであるが、他面新しい一次史料の使用や、関係者とのインタビューにもとづいて、独白の解釈を随処にもりこむ、力量感に溢れるものとなっている。外交史研究として、近年にないスケールの大きさが、受賞理由の第一に上げられる。著者は、本書について、「日本史家による『外への旅』の試みである」というが、たしかに石原莞爾という人物を中心に、日本の近代政治史を専攻した著者が、アメリカ現代史という新しい知的分野に足をふみいれて、対日戦後処理政策の形成というドラマに参加したアクターたちの動きに、好奇心に満ちた描写を行っている。そこには「外への旅」ならではの、新鮮な感覚と大胆な見方がある。トップの政策決定者、とくにローズベルト大統領と国務省との間の対日政策の差異とその統合過程に、著者はとくに多くの筆をさくが、ここでしめした分析はすぐれており、また、大統領と国務長官ハルとの関係についての叙述も、中々に斬新で面白い。(以下略)」*17としていた。日本に寛大な政策を求めた国務次官のジョセフ・グルーが生き生きと描かれていたことは印象的であった。ここで、この素晴らしい研究書である本書が、米国の公文書館の利用によってもたらされたことを知った。また、入省してから、秦郁彦著『官僚の研究―不滅のパワー・1868-1983』(講談社、1983年)を当時の大蔵省文庫(現・財務省図書館)で見つけて読む機会があった。秦氏が旧大蔵省に在籍していた際、米国の外交文書を活用して、『昭和財政史 終戦から講和まで(3) アメリカの対日占領政策』(大蔵省財政史室編、東洋経済新報社、1976年)を著したことを知り、こちらも米国の公文書館の存在に深い感銘を受けた。このようなことがあったことから、「はじめに」で述べたように、福岡市出向時代に福岡市立図書館の公文書館機能の強化について「答申」に記述が入ったことは大変うれしかったわけだ。2010年3月12日に、「沖縄返還に関する財政負担に係る文書」及びいわゆる「無利子預金」に関する調査結果の報告にあたっての菅財務大臣談話が公表された*18。この中で、「本件調査を通じて、一定額以上の無利子預金を維持する措置が継続されていたにもかかわらず、関連する事項が組織的に引き継がれていなかったことや、文書の保存管理において歴史的資料を残すという観点が希薄であり、重要な歴史事実の検証が困難になっているなど、組織としての事務運営の在り方の(1)米国の公文書管理について感銘(2)いわゆる「財政密約」に関連して

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