ファイナンス 2022年9月号 No.682
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2.3  第I非価格競争入札と第II非価格競争図表1 価格競争入札および非価格競争入札におけるタイムラインのイメージ非価格競争入札入門価格競争入札と第Ⅰ非価格競争入札の応札10:3011:50価格競争入札と第Ⅰ非価格競争入札の結果発表12:35第Ⅱ非価格競争入札の応札第Ⅱ非価格競争入札の結果発表14:0014:3015:15 *7) T-billの場合については時間が異なる点に注意してください。詳細は債務管理リポート等を参照してください。ファイナンス 2022 Sep. 15このような非価格競争入札が実施されている理由の一つとして、投資家に、入札において平均的な価格で購入したいというニーズがあることが挙げられます。例えば、読者が金融機関に勤める日本国債のプロフェッショナルの投資家であれば、日々国債マーケットを分析し、トレーディングの経験も豊富であるため、入札の際にどのような価格で応札すべきかについて、一定の意見が生まれるはずです。しかし、例えば読者が多様な運用資産を有しており、運用資産全体に占める日本国債の割合がごく一部である場合、毎日のように日本国債のマーケットを細かく分析することは困難でしょう。また、海外の投資家にとって日本国債の入札が行われる時間は夜中になりうるなど、入札直前のマーケットを確認することが難しい可能性もあります。そのような中で、読者が、最安の価格でなくとも日本国債を購入するという方針を持っていたとすれば、入札における平均的な価格で購入したいというニーズが生まれる可能性があります。その意味で、非価格競争入札によって、価格競争入札のみの場合には国債を購入しないであろう投資家の潜在的なニーズが掘り起こされていると解釈することもできます。我が国における非価格競争入札に関して非常に重要なのは、この制度がPDに与えられた権利であるという点です。ファイナンスの言葉を使えば、非価格競争入札は、PDが行使するかどうかを選択できる「オプション」ということです(債券市場におけるオプションについては服部(2021)や服部・JPX(2022)を参照してください)。PDは財務省により特別な資格を付与された金融機関であり、財務省が国債を発行するにあたって、投資家に対して国債の営業を行います。その際、前述のように、投資家の中には平均価格で買いたいというニーズが存在しうるため、PDとしては平均価格で購入できる枠が予め付与されていれば、その注文に対応することが容易になります(ちなみに、このように平均価格で買いたいという注文を、実務ではしばしば「アベレージの注文」や「アベ注文」といいます)。したがって、発行当局は、PDが果たすべき責任の対価として、このオプションを付与していると捉えることができます(PDの役割については後述します)。非価格競争入札は、前述のとおり、価格競争入札により形成された平均価格を適用した入札ですが、具体的には、価格競争入札と同じタイミングで実施する「第I非価格競争入札」と、価格競争入札の後に実施する「第II非価格競争入札」に分かれます。第I非価格競争入札は、価格競争入札と同時に応募が行われ、発行予定額のうち一定割合(現在は20%)を発行限度額とし、価格競争入札における平均価格を発行価格とするものです。この入札の特徴は、非価格競争入札に参加する時点で、自分が購入する具体的な価格は分からないものの、「価格競争入札の平均価格」であることは分かっている点です。価格競争入札については10時30分から11時50分までに応札し、その結果は12時35分に発表されます(ここでは利付国債を前提にしています*7)。すなわち、12時35分時点でコンベンショナル方式に基づき、平均価格が決まります。そして、第I非価格競争入札に参加したPDは、価格競争入札で定まった平均価格で国債を購入することになります。前述のとおり、非価格競争入札はPDの権利ですが、各PDには、過去の落札の実績に比例して、事前に利用できる枠が与えられます(詳細な計算式は後述します)。第II非価格競争入札は、価格競争入札が終わった後に実施される入札です。価格競争入札の平均価格を前2.2 非価格競争入札の背景入札

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