ファイナンス 2022年9月号 No.682
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 服部 孝洋*2/石田 良*3/早瀬 直人/堀江 葵*41はじめに本稿は非価格競争入札の制度概要について説明することを目的としています。我が国において国債の大宗は入札によって発行されていますが、その3割程度が非価格競争入札と呼ばれる方式で発行されています。この制度は、入札の対象となっている国債を価格競争入札における平均価格*5で購入できるという制度であり、国債の入札への参加等が義務付けられている国債市場特別参加者(いわゆるプライマリー・ディーラー(Primary Dealer, PD))の権利となっています。2非価格競争入札とは2.1 価格競争入札と非価格競争入札*1) 本稿の意見に係る部分は筆者らの個人的見解であり、筆者らの所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者ら*2) 東京大学公共政策大学院特任講師*3) 財務省財務総合政策研究所客員研究員*4) コロンビア大学国際公共政策大学院*5) ここでの平均価格は、価格競争入札の落札額でウェイトをとった加重の平均価格になります。なお、本稿において入札の平均価格と記載した場合、こ*6) https://sites.google.com/site/hattori0819/によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。の加重平均価格を指している点に注意してください。価格競争入札の詳細は、石田・服部(2020)などを参照してください。非価格競争入札については、近年、需要が高まっているとの指摘がPDなどからなされており、この制度を理解する重要性は増していると考えられます。そこで本稿では、非価格競争入札の制度概要について包括的な説明を行います。なお、石田・服部(2020)は、国債の入札制度全般を説明しており、同論文と合わせて読むことで、日本国債の入札制度についての概要を掴むことが可能です。また、次回の論文では、海外の制度について説明することを予定しています。なお、国債や債券全般に関する情報については、筆者(服部)のウェブサイト*6に掲載しているため、そちらも参照いただければ幸いです。我が国では、国債の大宗が価格競争入札によって発行されていますが、価格競争入札とは、国債を発行する際の価格や販売先を決めるにあたって、入札の参加者である証券会社や投資家が買いたい値段を提示し(応札)、高く応札されたものから順番に購入の権利が与えられる(落札)というものです。詳細は、石田・服部(2020)で説明していますが、我が国では、各落札者が自ら応札した価格で購入する「コンベンショナル方式」と、すべての落札者が同じ価格で購入する「ダッチ方式」とが併用されています(紙面の関係で、これらの方法の説明は割愛します。詳細は石田・服部(2020)を参照してください。40年債で利回り競争入札・ダッチ方式、物価連動国債で価格競争入札・ダッチ方式を採用している以外は、価格競争入札・コンベンショナル方式を採用しています。また、本稿ではコンベンショナル方式を前提とした説明を行いますが、その理由は後述します)。もっとも、我が国では上述のような価格競争入札だけでなく、非価格競争入札と呼ばれる方式でも国債が発行されています。非価格競争入札とは、前述の価格競争入札(特にコンベンショナル方式)のように入札の参加者が提示した価格で発行するというものではなく、価格競争入札により形成された平均的な価格で発行するというものです。価格競争入札では、例えば、読者が高い価格で応札した場合、割高な価格で購入するリスクがありますし、低い価格で応札した場合、そもそも国債を購入できないリスクも考えられます。それに対し、非価格競争入札では、各参加者(PD)は、予め与えられた枠内で、その入札における平均的な価格で国債を購入することができます。 14 ファイナンス 2022 Sep.―基礎編―*1非価格競争入札入門

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