ファイナンス 2022年8月号 No.681
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ファイナンス 2022 Aug. 53PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 101.財政の信認強化について2.高齢化社会における財政政策について3.財政リスク管理についてオープニング・プレゼンテーションSanjaya Panth氏(IMFアジア太平洋局副局長)から、アジア太平洋地域のマクロ経済と財政の課題について説明が行われました。アジアにおける人の移動については、概ね新型コロナウイルス感染拡大前のレベルに回復しているものの、中国においては、厳格な封鎖により依然として供給と輸出に混乱が生じているとの説明がありました。アジアの経済成長率については、ウクライナ侵攻による食料と原油の価格の大幅な高騰および欧州からの低調な需要の影響を受け、豪州やインドネシアのような一次産品輸出国を除いて見通しは下方修正されています。また、インフレ率に関して、ウクライナ侵攻以降特に上昇しているが、コロナ後の経済回復のため財政出動が見込まれる中、金融政策と財政政策のバランスの取り方が非常に重要で困難なものとなっているとの指摘がありました。次に、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するためには、アジアにおいても追加的な財政支援が必要である一方、気候変動の影響を強く受けている太平洋島嶼国において目標達成のための財政支出の余裕がないとの課題が示されました。最後にデジタル化に関しては、新型コロナウイルス感染拡大を契機にアジア諸国ではデジタル化が促進され、特に中高所得国にとって、生産性の向上や税収の増加をもたらすものである一方、構造的な失業やプライバシーの問題に対処する必要があると指摘されました。セッション1:財政の信認強化このセッションでは、アジア経済が、ウクライナ侵攻によるエネルギー・食料の価格高騰により、新型コロナウイルス感染拡大からの経済回復が阻害されている中、いかに財政政策を運用するかについて発表が行われました。Paolo Mauro氏(IMF財政局副局長)は、直近1年半でエネルギー・食料の価格の高騰が続く中で、ソーシャル・セーフティ・ネットが強固な国においては、市場原理をうまく機能させるために、国際価格を国内価格に転嫁することを許容する一方で、ソーシャル・セーフティ・ネットが弱い国については、国民が安定的に食料を手にできるよう、緩やかに国内価格へ転嫁する政策が必要と説明しました。また、パンデミック後においては、特に新興国において、低い実質GDPや高い公債残高が継続するとの予測が示されました。IMFは財政の信認強化の課題に取り組んでおり、各国が、エネルギー・食料価格の高騰への対応および投資・開発のニーズを考慮しながら、市場や国民生活に安心を与えるため、中期的な財政枠組み(fiscal framework)を構築することの重要性が強調されました。宮本弘暁氏(東京都立大学教授)は、高齢化が財政政策の効果に与える影響についての実証的な分析を紹介しました。それによれば、高齢化の下では財政乗数は小さく、景気後退期において、総需要を支えるために必要とされる財政刺激策を実施することに備えるためには、好況時に十分な財政余力を確保する必要があることが指摘されました。また、財政出動によるアウトプットへの効果が小さいことを考慮すると、構造改革を含む他の経済政策が内需を支える上でより重要な役割を果たす必要があること、労働供給を増やすための様々な政策は、高齢化社会においてアウトプットを増加させるのに役立つだろうと述べました。Delphine Moretti氏(IMF財政局地域アドバイザー)は、財政リスク管理について、IMFが掲げている効果的な4つのステップについて紹介しました。多くの国では、財政リスクについてある程度まで特定し、予算書の中でリスクを説明しているものの、定量化および分析能力が開発されていない場合には、適切なリスク回避やリスクを緩和するための戦略の設計、リスクに対する適切な引当を困難にしていることが指摘されました。財政リスク管理とは、政府が情報に基づき政策を決定し、財政の弾力性を高めるためにどのような政策を講じるか説明する機会であり、財政の信頼性の必要条件となると強調しました。

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