ファイナンス 2022年8月号 No.681
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(神林)誤解を恐れずに言えば、賃金との見合いだと思っています。その他の条件を一定とした場合のワークエンゲージメントを考えないといけませんが、調査の設計でそれが出来ているようには思えません。まあ、意図的にそうなっていると思うのですが。ともかく賃金などの条件を一定にした場合を、本当のワークエンゲージメントだと考えて、それが低いのかどうかは、私は分かっていないと思います。(上田)本日は、多岐にわたるテーマについてお話しいただき、ありがとうございました。また、1990年代以降、平均的にみて賃金が上昇しにくくなっているということは指摘されていますが、平均で見ていいのかという話は気になっています。90年代初頭のバブルの崩壊、2002年のITバブル後の調整不況、2008年のリーマンショックと、幾度か不況が起こり、その後景気回復が起こっているのですが、景気回復の段階で、回復している企業とそうでない企業があり、それが企業規模によって相当異なっています。特に、景気の回復過程で、中小企業の生産性が上がってこないというのが、平均的に生産性が上昇していないことを説明する大きな要因だったのではないでしょうか。日本の停滞の理由として、日本的な雇用慣行の下にある大企業の労務管理上の問題点を指摘する見方もありますが、そのことは、中小企業の生産性の伸びの低下とは論理的に関係ありません。中小企業においては、いわゆる日本的雇用慣行が原因で生産性が落ちていたわけではありません。もちろん、労働市場全体として、大企業が日本的雇用慣行を堅持するために中小企業の経営が大きな影響を受け、それゆえに中小企業の生産性が下がっているという理屈は考えられるのですが、間接的なものにすぎません。自営業者と非正規労働者とのトレードオフの関係や、生産性が落ちても市場から退出しない企業が多いこと、サプライチェーンのグローバル化が進む中で低賃金国の企業競争相手になったことなど、様々な側面が考えられると思います。90年代以降の動きを考える際には、そうした点にまで目を向けて考えないといけないのではないかと思います。 50 ファイナンス 2022 Aug.

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