ファイナンス 2022年8月号 No.681
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ファイナンス 2022 Aug. 49PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 10零れ落ちる人の数を減らしていくことができると思います。この関係を意識したうえで、データを作り出す過程そのものに介入することが必要になるのではないかと思います。例えば、ケースワーカーとその被保護者の間で話しあって、こういう援助が必要だということを合意できたとしたら、それを説得的なものにするためにデータを作り、そのデータに基づけば是認できるというような調整ができれば、よいのではないでしょうか。このプロセスについては、データ生成を自動化すればよいと考える人たちもいますが、自分は、データを意図的に作り出すということをした方がよいのだろうと思います。(上田)この辺りの感覚は、個人主義の米国では全く異なるでしょうし、欧州でも全く異なるのだろうと思いますが、どのように異なっているとお考えでしょうか。(神林)欧州の場合には、自動的に獲得できる情報をもとにルールを作るという考え方が根底にあって、逆に、意図的に作り出さなければいけない情報を諦めているふしがあると感じます。意図的に情報を作り出した場合には、必ずバイアスがかかるので、自動的に獲得できる情報だけに基づいてルールを構築しようという考え方が徹底している。その中で、零れ落ちた人たちに対しては、いざとなったら公共の力によって、強制的になっても状況を改善させようとするというのが、欧州の特徴ではないかなと思います。一方で、日本の場合には、政府が強権を発動して人々に行動を強いることが非常に嫌がられる文化です。このため、一人ひとりの要求にあったような形で援助していくために意識的な情報収集を積極的にやっていくことが求められているように思います。(上田)きめ細かい情報をすくいあげるという観点からは、最近、日本の企業や役所の組織の中でのHRMを考える際に、アウトプット評価に加えて、個々人のモチベーションやエンゲージメントなどを評価しようとする取り組みがかなり進んでいると言われます。また、個々の人々のモチベーションを上げるために、1on1ミーティングが推奨されていますが、神林先生はどう考えていらっしゃいますか。(神林)日本では、なぜ1on1ミーティングをやらなければいけないのかがあまり整理されないまま、急速に広がってしまった印象があります。本来であれば、業務に関して技術的に集めることのできる情報は、マネジメントは着々と集めるべきであって、1on1ミーティングはその代替にはなりません。本来やるべき情報収集ができていないのを、1on1ミーティングでお茶を濁しますという話になっていないかは気になっています。まずは、情報化やDXをきちんと進めるべきという方向が一方にあると思います。その車の両輪のもう一方として、1on1ミーティングがいいのか、それともMany to Manyミーティングの方がいいのかは良く分かりませんが、情報を意図的に作り出すようなプロセスを設ける必要があるのは間違いないと思います。機械的にすくい上げられる情報と、意図的に作り出さないといけない情報の二つがあることを明確に念頭に置かなければならない。もちろん、意図的に情報を作り出す場合には、どのようにして公平公正に把握するかという問題があります。さまざまな情報をどう集めるかを考えた時に、1on1ミーティングが有効だと考えればそれをやればよく、グループミーティングのほうが有効だと思えばそれをすれば良いのです。何がわかっていて、何がわかっていないか、そして何をしなければならないかという目的意識を明確にして、ミーティングがその中で何がどういう役割を果たすべきかを考えることができれば、そんなに悪いことにはならないのではないでしょうか。行政、HRM、教育といった分野ごとに得られる情報のバランスは違うと思いますが、そうした情報の活用方法を丁寧に考えて行くということが必要になってくるのではないかなと思います。5.今後の論点:企業の生産性(上田)職場における日本人のワークエンゲージメントが低いのではないかということが最近よく指摘されますが、その議論をどうご覧になっていますか。

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