ファイナンス 2022年8月号 No.681
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ファイナンス 2022 Aug. 45PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 10象の大きな要因となっているのではないか、また、それらが今後の仕事・働き方・賃金のあり方にも無視できない影響を及ぼしていくのではないか、といったことを出発点として考えていました。それぞれの論点について、研究を行っている方々にメンバーとしてご参加いただくとともに、神林さんには、座長として全体の議論をまとめていただきました。おかげさまで、様々な論点を関連付けながら議論を整理していただき、ありがたく思っていますが、研究会での議論を振り返ってみていかがでしょうか。(神林教授)これまで労働市場については、税制の影響なら税制の影響だけ、マネジメントの役割であればマネジメントの役割だけ、雇用の流動性であれば雇用の流動性だけというように、様々なテーマについて、それぞれ切り分けられた別々の議論が行われてきたと思います。本来は、全体像をきちんと見てみようという試みがなされて然るべきでした。今回の研究会では、様々なテーマを並べてみて、その組み合わせが日本の労働市場のパフォーマンスと関係がありそうだということが分かってきたのではないかと思います。それぞれの論点について、きちんと精緻に議論していくのは、これから先に求められる話になると思いますが、最初のとっかかりとしては悪くない報告書になったのではないかと考えています。(上田)財務省の研究所で、日本の仕事・働き方・賃金といったテーマでの研究会を開催することの意義について、どのように思われますか。(神林)財務省での研究会は、実際に制度を所管している他の省庁の研究会と比べて、一つ一つの問題に対してのスタンスが中立的という印象です。まあ、税制以外はという限定付きですが。制度を所管している省庁には、自分たちが直接何かをしようとする意欲があり、どうしても自分たちがあらかじめ想定している考え方に沿った議論を取り上げてしまう傾向がありますが、この研究会では、色々な議論を両論併記でニュートラルに取り上げることができたという意味で、有用だったのではないかと思います。(上田)こうした研究会の場は、行政官にとっては、研究者との間でのインタラクションを持ち、様々な知見を得るために有益な機会だと考えていますが、研究者の立場からは、どのような意義があると考えていますか。(神林)一つはこちらから行政官に対して何か影響を及ぼすという点。研究会というかたちであれば、行政官の方も中立的な形で参加してくれますし、研究者は、様々な研究を、相互に矛盾しているかもしれないことをあまり気にせずに、こうした研究があるよ、こういう見方があるよと提示することができます。その結果、共通の知識を持つことができるのは大きなメリットではないかと思っています。もう一つは行政官の側から研究者の側に働きかけることもできます。もちろん、それぞれの研究者によって感覚は違うと思いますが、研究者側はどういう研究ができるかを常に考えています。行政官の側から、制度や行政として保有しているデータに関して新たな情報を提示していただくことができれば、研究者にとっても役に立つことも見つかっていくと思います。(上田)今回は、研究会メンバーの児玉直美先生に、賃金センサスの個票データを利用した分析を行っていただき、さらに研究を継続していただくことをお願いしています。税務データなどの行政データの利活用については、共同研究という枠組みが設けられ、少しずつではありますが、財務省全体としても前に進めているところです。いずれにしても、行政官と研究者がインタラクションできる場があるというのは大事だと思っています。2.長時間労働プレミアム(上田)今回の研究会の議論を始めるにあたっては、Claudia Goldinが、長時間労働に対して賃金のプレミアムが発生することが、男女間の賃金格差に大きな影響を与えているということを提唱したことを、議論の一つの起点としてきました。こうした議論は、男女間の賃金格差や均等待遇をどのように実現していくのかを議論していく際に、実務家にとっても有益な視点

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