ファイナンス 2022年8月号 No.681
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◆ パネルディスカッション3 「秩序だったトランジションを達成するファイナンス」最後のパネルでは、銀行・資産運用会社・機関投資家の立場から、フォワードルッキングに企業のトランジションを評価するための金融機関の目線や現時点での日本企業の評価、技術革新や顧客とのエンゲージメントの促進方法等について議論が行われた。銀行セクターのパネリストからは「十分な能力を持つ地域や企 脱炭素への移行と金融の果たす役割ファイナンス 2022 Aug. 27◆ パネルディスカッション2 「ネットゼロ達成に必要なトランジションパスウェイ」続いてのパネルでは、より実務的な議論を行うため、「鉄鋼」「航空」「電力」の3つのセクターの分科会に分かれ、国内外におけるパスウェイの策定者、企業、投資家や外部評価機関をパネリストとして招き、パリ協定の目標を達成するための信頼できるパスウェイの在り方について議論がなされた。鉄鋼セクターの分科会では、海外のパネリストから「鉄鋼メーカーの移行計画は、炭素・資源効率の向上や、二酸化炭素の吸収といった技術の利用と、水素還元製鉄といった排出削減の深掘りに必要な新技術の早期開発へ向けた投資を組み合わせたものであるべき」といった意見が聞かれるなど、R&D投資を含む移行戦略の重要性が指摘された。また、航空セクターの分科会では、業界内の競合関係を乗り越えて、脱炭素化に向けた検討を行っている先駆的事例等が紹介され、セクター全体、産業界全体や金融界を含めた対話を通じて相互に理解を深め、協力して課題に対応することの重要性が指摘された。さらに、海外の金融機関のパネリストから「移行計画は時間の経過とともに更新されていくのが望ましい」といった指摘もあった。電力セクターの分科会では同セクターのパネリストから「島国である日本は、国内発電で全ての電力需要を賄う必要があるため、エネルギー転換は時間をかけて進める必要がある」とするなど、一朝一夕では困難な脱炭素への移行の過程における息の長い金融支援の必要性を指摘する意見があった。一層厳しくなっている」としたうえで、目標、戦略、設備投資の整合性、計画の一貫性を確保できた、信頼に足る計画の必要性を指摘する声があった。業だけが脱炭素化を進め、他を置き去りにすることはネットゼロへの正しい道ではない。あらゆる企業に移行計画の作成を促し、金融面等で支援をするというのは銀行独自の役割だ」という声があった。また、海外のパネリストからは「日本企業は技術的に有利な立場にあり、脱炭素への移行において世界をリードすることが期待されている」との指摘があった。◆閉会挨拶金融庁の天谷知子 金融国際審議官から、高排出セクターの企業にアプローチする、事業体ベースの日本のトランジションファイナンスへの取組みに関し、現時点でDynamic、Flexible、Interactiveの3つの観点から価値が見いだせるとの説明があった。そのうえで、信頼性の高いトランジションファイナンス市場の更なる発展のために、金融庁が取り組むべきと考えていることとして、(1)民間と連携した公的セクターによる取組みの継続、(2)外部評価者や金融機関の取組みの質と信頼性の向上、(3)企業自身の取組みの強化、を掲げ、本シンポジウムが、パリ協定の実現に向けた長い旅路の礎となることへの期待が述べられた。

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