ファイナンス 2022年8月号 No.681
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2シンポジウムの狙いと構成今後は、こうした移行に向けた取組みが徐々に実装段階に入り、脱炭素への移行に向けた一層具体的で踏み込んだ議論が国際的に展開されることが見込まれる。わが国においても、脱炭素への移行という差し迫った課題を解決するため、産業界、業界団体、金融界、公的部門、民間のトランジションファイナンス評価会社を含む国内外のステークホルダーが、それぞれの持ち場から、移行への長い道のりの過程でどのような課題があり、どのように対応することが求められるのかといった議論を行うとともに、移行計画のあるべき姿を議論し、立場の違いによって生じる様々な意見をすり合わせることが重要となる。 *5) シンポジウムの詳細については、金融庁(2022)をご覧いただきたい。脱炭素への移行と金融の果たす役割ファイナンス 2022 Aug. 251−3. 産業界と金融界を含む多様なステークホルダーの協力が重要に用に伴う間接排出量(Scope2)のほか、データ等が利用可能な場合、投融資先企業等の排出量(Scope3)も開示を検討すべきとし、また、金融機関の投融資等の事業活動が2度を十分に下回るシナリオとどの程度整合性があるかについて説明すべきとした。さらに、排出削減にコミットをする企業等は移行計画を説明することとし、移行計画の内容にはGHG排出量削減目標、事業及びバリューチェーンにおける排出量の削減を意図した活動または移行を支援する活動、を含める場合があるとしている。さらに、金融界一丸となって産業界や政府によるパリ協定の目標達成を支援することを掲げる民間金融機関や投資家の国際的な有志連合である「ネットゼロに向けたグラスゴー金融同盟(GFANZ(Glasgow Alliance for Net Zero))」が2021年4月に、カーニー氏を議長として発足したことも、移行計画への要請をさらに高めることに繋がった。本同盟に金融機関が参加するにあたっては、Scope3も含めた2050年までのネットゼロの実現を目指し、移行の戦略を公表することや、これと整合的な2030年またはそれ以前までの中間目標を、科学的根拠に基づくシナリオを用いて設定すること、目標の進捗についての透明性のある報告をすることを約束すること等が求められている(GFANZ, 2021)。現在、GFANZに参加する金融機関の総資産額は130兆ドル以上となっており、今後のトランジションファイナンスの議論をけん引することも考えられる。パリ協定の目標達成には産業・エネルギー構造の大規模な転換が必要となるため、変化を求められる部門や企業は必ず存在する。特に、高排出企業・セクターの場合は、脱炭素への移行に向けた技術や設備の大規模な更新も必要になる。さらには、現状実用可能な技術だけでは、十分な脱炭素化を実現することが困難な場合には、研究開発投資も必要となってくる。このような脱炭素化へ向けた投資に必要な資金の調達にあたっては、着実な移行の道筋(パスウェイ)を示すこと、すなわち、信頼できる「移行計画」を示すことができるかが産業界の課題となってくる。また、金融機関にとっても産業界の移行の道筋は重要となってくる。金融機関自身も投資家等から資金調達を行う上で自らの移行計画を示すことが求められるようになりつつあるが、投融資先企業の移行対応の遅れによる企業価値の毀損は金融機関自身の財務状況にも影響を与える可能性があるため、投融資先の移行計画を把握することなしでは、金融機関自らの具体的な計画を示すことが難しい。こうした背景から、金融機関にとっても、投融資先企業の着実な移行の取組みを適切に捉えることが重要であるとの認識が浸透してきた。このように、脱炭素社会の実現にあたっては、移行の道筋を示し、実際に行動をとる産業界と、移行計画を評価したうえで、産業界の取組みを支援する金融界を含む、様々なステークホルダーの協力が不可欠となる。そこで金融庁では、本年5月26日に、虎ノ門ヒルズフォーラム及びオンラインにて、国内外の産業界、金融界、公的セクター等のステークホルダー約30名にご登壇いただき、ネットゼロへのトランジションのパスウェイや、トランジションファイナンスの役割について議論を行う国際シンポジウムを開催した*5。感染症対策のために会場参加人数に上限を設けつつ、グローバルな課題解決に必要な参加者同士のネットワーキングを行うため、ハイブリッド形式での開催とし、当日は、会場・オンラインの参加を合わせ、約850人に参加いただいた。本節では、本シンポジウムにおける議論の概要を紹介する。

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