ファイナンス 2022年8月号 No.681
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(p.235)としています。 *27) 本稿では、DVAやKVAなど、その他のXVAについては触れていません。これらの詳細はグレゴリー(2018)を参照してください。*28) 例えば、BCBSによる「Progress report on adoption of the Basel regulatory framework」においても「Margin requirements for non-centrallycleared derivatives」という項目が存在します。*29) グレゴリー(2018)では「バーゼルIIの枠組みで主に強調されたのは、ローンのように比較的エクスポージャーが固定されている金融商品であった」*30) 富安(2014)では、「海外の大手金融機関のほとんどは内部モデル方式を使っているが、日本では、歴史的にカレントエクスポージャー方式が多く用いられてきた。しかし、近年日本においても、先進行を中心に内部モデル方式への移行を検討するところがふえつつある」(p.85)としています。証拠金規制入門ファイナンス 2022 Aug. 215.2  バーゼル規制における証拠金の取り扱いについてるといえます。CVAはこのような文脈でデリバティブ取引におけるカウンターパーティ・リスクの貸倒引当金と解釈することができます(デリバティブの時価から、その引当金に相当するCVAを控除することでデリバティブの公正価値が計算できます)。金融危機以降のデリバティブの評価において、CVA以外についても様々な調整が求められています。例えば、読者がA社と標準的なOTCデリバティブ契約を結ぶ一方で、そのヘッジとしてB社と同種の契約を結んだケースを考えます。その際、A社との契約にはCSA契約がなく、証拠金の受け渡しがない一方、B社との契約についてはCSA契約を締結しており、証拠金の受け渡しがあるとしましょう。これは前節で取り上げた事例になりますが、前述のケースと同様、仮にB社との契約の時価がマイナスに動いた場合、読者はB社へ証拠金を差し出さなければなりませんが、A社からは証拠金を受けとることができません。したがって、読者はB社へ差し出す証拠金を自ら調達してくる必要があり、それは読者にとって追加的なコストになります。それゆえ、読者にとってA社との契約については事前にこのコストを調整した価格を求めることが合理的です。これはいわば証拠金の受け渡しがないことに係る調整になりますが、これをFunding Value Adjustment(FVA)といいます。現在の標準的なデリバティブ契約では中央清算機関やCSA契約を通じて証拠金の受け渡しをすることが多いのですが、証拠金の受け渡しがないケースでは、デリバティブの価格にFVAを調整する慣行が広がっています。実は、中央清算機関や証拠金規制に伴う当初証拠金の受け渡し等についても調整が求められます。例えば、前述のとおり、中央清算をするうえで当初証拠金を差し出す必要がありますが、その資金については自分で調達してくる必要があります。この場合、読者自身のクレジット・リスクが反映された相対的に高い金利を支払う必要があります。一方、証拠金を差し出すことから得られる金利は無リスク金利程度であり、高い金利で調達して低い金利で運用するという構図が生まれます。デリバティブの価格にはこの部分のコストも調整することが合理的に思われますが、これをMargin Value Adjustment(MVA)といいます。このようにカウンターパーティ・リスクに係る調整についてはCVA、FVA、MVAという形で表現されるため、これらを総称してXVAと表現することが一般的です*27。ちなみに、実際にMVAの値を計算するには、証拠金の金額が将来のポジション変動に依存するため、シミュレーションをする必要があります。その詳細についてはグレゴリー(2018)などを参照していただければ幸いです。本稿では証拠金規制について考えてきましたが、同規制はバーゼル規制の一つとされています*28。もっとも、バーゼル規制において証拠金の取り扱いについては、証拠金規制以外でも様々な改革がなされているといえます。具体的には、バーゼル規制においてデリバティブ取引については、「与信相当額」を用いて信用リスクアセットを算出します。「与信相当額」とは、いわばデフォルト時のエクスポージャー(Exposure at Default)であり、貸出の場合は明確であるため、バーゼルIIでは貸出を主に強調した仕組みがとられていました*29。もっとも、金融危機時に問題となったデリバティブ取引に係る信用リスクについては、規制の整備が不十分であった側面が指摘されています。具体的には、デリバティブ取引の信用リスクアセットを算出するうえで、バーゼルIIで導入されたカレント・エクスポージャー方式(Current Exposure Method, CEM)と呼ばれる非常にシンプルな手法が広く用いられていました*30。CEMでは、信用リスクアセットを「与信相当額×掛け目」というシンプルな計算式で算出しますが、与信相当額の算出に当たっては証拠金について簡

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