ファイナンス 2022年8月号 No.681
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𝑉(𝑟𝑘)は現状の時価であり、𝑉(𝑟𝑘+1𝑏𝑝)はある年限の金利(𝑟𝑘)が1bps上昇した時の時価です。𝑠𝑘は具体化として把握されます。ここでは𝑉というブラックす*23。前述のとおり、例えば、10年金利が1bps変化した時の時価の変化を感応度として把握するわけですが、実際に10年金利の動きをみると、10年金利が(1営業日で)1bps動いているわけではありません。そのため、1bps動いた感応度を実際の過去の動きに立脚した値に変換するため、過去の値から算出したボラティリティと感応度を掛けることで、実際の動きに立脚したリスク量に変換します。例えば、過去のデータによると10年金利が1日で±5bpsのレンジ*24で動いている場合、1bpsの *22) ここでの表記はSIMMのマニュアルに沿っています。*23) 実際には、これにconcentration risk factorを掛け合わせていますが、これはこの点はわかりやすさのために捨象しています。*24) 厳密にいえば信頼区間で考える必要がありますが、ここでは省略しています。詳細は筆者が記載した「国債先物オプション入門」などを参照してください。*25) ちなみに、バーゼル規制では、標準的手法により信用リスクアセットの計測の際に、「与信額×リスク・ウェイト」という計算をします。*26) 日本語の文献では、斎藤(2017)が金利デルタをベースにSIMMの説明をしています。SIMMがシンプルな理由:ボラティリティや相関係数がISDAにより指定されている証拠金規制入門ファイナンス 2022 Aug. 19いたとします。そのうえで、例えば5年金利や10年金利が1bps動いた時に、そのポジションの時価がどのように変化するかを計算します。これはある金利が1bps動いた場合の損益ですから、金利の感応度を考えているといえます(本節では簡単化のために金利の感応度だけを考えます)。𝑠𝑘をある年限の金利が1bps変化したときのデリバティブの時価の変化とすると、下記のように表現できます*22。的には1年金利や2年金利を動かした場合の時価の変ボックスの関数で記載されていますが、ここはいわば各社がモデルを用いて計算する部分になります(服部(2021a)では、日本国債について各金利が1bps動いた時の感応度の具体例を紹介しています)。リスク・ウェイトを掛けることで感応度毎のリスク量を算出SIMMでは、このようにモデルを使って感応度を算出したうえで、SIMMが提供するリスク・ウェイト(𝑅𝑊𝑘)をボラティリティを掛け合わせることで(𝑊𝑆𝑘=𝑅𝑊𝑘𝑠𝑘)、各グリッド毎のリスク量(𝑊𝑆1 … 𝑊𝑆𝐾)を計算しま掛け合わせることで、感応度毎のリスク量を計算します。具体的には、先ほど言及した感応度に対して、各年限の変化で計算した感応度を5倍することで、実際の変動に立脚したリスク量を算出できるわけです。これが𝑊𝑆𝐾=𝑅𝑊𝑘𝑠𝑘のイメージになります*25。行列計算によりVaRを算出SIMMでは、そのうえで、下記のような行列計算をすることで、各感応度を統合してVaRを算出し、それを受け渡す当初証拠金の金額とします*26。この式はという形でも表現することができますが(𝜌𝑘𝑙は金利グリット間の相関係数)、SIMMのドキュメントではこの表現が用いられる点に注意してください(これはスタンダードなVaRの計算方法ですが、上記の式からVaRの算出のイメージを掴みたい読者は服部(2021a)やリスク管理のテキストを参照してください)。SIMMが特に簡易化されている点は、各感応度のボラティリティや相関係数を自ら推定するわけではなく、ISDAにより指定されている点です。金融機関のリスク管理で実際にVaRを計算する場合、各金融機関がボラティリティや相関係数などをもちろん自ら推定するのですが、SIMMの場合、本来推定すべき値がISDAにより与えられているということです。特に、SIMMでは多くの通貨の金利について同じボラティリティや相関係数を指定するなど、驚くくらいシンプル化されています。実際には通貨毎で金利の水準や変動が全然違うということは読者も実感があるでしょうから、SIMMにおいてVaRの算出が著しくシンプル化されているという印象を持つと思います。SIMMでは、感応度として用いられるグリットも指定されています

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