ファイナンス 2022年8月号 No.681
22/74

*19) ここではGPSではなく、デュレーションとして例を挙げている理由は、10年国債のデュレーションが10弱であるということを実務家は皆知っているため、より直観的であると感じたからです(デュレーションもGPSと同様、感応度です)。デュレーションとGPSの関係については服部(2021a)を参照してください。*20) 国債の価格をキャッシュフローの割引現在価値として表現し、各年限の金利を動かした場合に時価がどの程度になるかをすることで感応度を計算しま*21) ここではSIMMのドキュメントに基づき、プロダクト・クラスという表現を用いています。す。筆者が記載した「金利リスク入門」のBOXに数式を用いて説明しているため、詳細はそちらを参照してください。4.2 感応度アプローチ4.3 具体的な計算のイメージ感応度の定義ISDAはSIMMを定期的にアップデイトしています。これまで通貨ベーシスを新たなファクターに追加するなどの改定がなされています。また、このモデルの正しさに関する検証もなされており(バックテスティングといわれています)、各金融機関はその結果をISDAに提示するなどしています。ここから証拠金規制におけるSIMMを用いたVaRの計算のイメージを説明します。まず、SIMMでは、感応度アプローチ(Sensitivity Based Approach)と呼ばれる手法を用いてVaRを計算しています。感応度アプローチとは、直観的には、トレーダーなどが有する各ポジションのリスク量を、まずは感応度に分解した後、ボラティリティ(標準偏差)や相関関係などを利用して、VaRを算出するというものです。服部(2021a)ではグリッド・ポイント・センシティビティ(GPS)と呼ばれる感応度を用いてVaRを算出する例を取り上げましたが、感応度は、例えば10年金利が1bps変化した場合にどの程度損失が発生するかを表します。服部(2021a)では、VaRの計算方法の一つとして「分散共分散法」と呼ばれる手法を紹介し、自らのポジションを感応度に分解すれば、各感応度のボラティリティや相関係数を算出することにより、簡易的にVaRを算出できることを説明しました。このように感応度に分解してリスク管理をすることは、実務的に非流動的なデリバティブを管理するうえでも広く用いられています。例えば、非流動的なデリバティブを担当するトレーダーは、自らのポジションをグリークス(デルタやガンマ等)と呼ばれる感応度に分解したうえで、その各リスクを潰す(ヘッジする)ことでリスク管理をしています(グリークスについては筆者が記載した「国債先物オプション入門」やハル(2016)を参照してください)。その意味で、中央清算機関でクリアリングされないような非流動性資産について感応度アプローチを使うことは、実務と整合性がある手法を用いているとみることができます。また、流動性が低いデリバティブについて過去のプライスのデータを得ること自体が困難という問題点もあります。SIMMにおける各感応度として採用されているリスク・ファクターは、例えば2年金利や10年金利など、過去のデータを容易に取得できるがゆえ、モデルを用いてそのリスク量を各感応度に落とし込めば、仮にそのデリバティブそのものの価格推移が見えなかったとしても、VaRを算出することができます。モデルを用いて感応度を計算するというと直観的にわかりにくいかもしれません。例えば、感応度に立脚した金利リスクの代表例としてデュレーションがありますが、10年国債の場合、そのデュレーションは10程度とされています*19(デュレーションと債券の年限はおおよそ一致するのですが、そのロジックについては筆者が記載した「金利リスク入門」をご参照ください)。デュレーションが10とは、イールドカーブがパラレルに1bps上昇した場合、(100円あたり)10銭程度の損失を計上することを意味しますが、この事例をみても、実際のデータがなかったとしても、モデルがあれば感応度を算出できることがわかります*20。このような観点で見れば、SIMMを用いることとは各社のモデル選択の自由を認めたうえで、共通して用いられる簡易的な手法を採用していると解釈することもできます。後述しますが、各種感応度を計算するモデルは、SIMMにおいてブラックボックスになっています。このようにすると各社が証拠金を低くするようなインセンティブを有すると感じるかもしれませんが、実際にはアセット・クラス(プロダクト・クラス)*21間の分散効果を認めないなど保守的な運営がなされています。ここからSIMMの計算方法についてごく簡単にそのイメージを説明していきます(実際の詳細な計算のイメージはSIMMのドキュメントをみてください)。例えば読者が金利デリバティブのポジションを有して 18 ファイナンス 2022 Aug.

元のページ  ../index.html#22

このブックを見る