ファイナンス 2022年8月号 No.681
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4Standard Initial Margin Model(SIMM)とはABCDE ISDA(出所)仲田信平氏資料を参考に筆者作成*18) グレゴリー(2018)では、「内部モデルの機能設計には大幅な解釈の余地があるので、カウンターパーティ同士の紛争を招き、さまざまなモデルの当局承認を得るべく多大な労力を要することが避けられないだろう。ISDAは主要な銀行とともにSIMM(Standardized Initial Margin Method)を開発してきたが、これは別々の証拠金モデルが方々で使われてしまい、当初証拠金に関する紛争が避けられなくなるような事態を防ぐためである」(p.176)としています。図表3 プロトコルのイメージ証拠金規制入門ファイナンス 2022 Aug. 17BOX 1 ISDA契約におけるプロトコルデリバティブ契約では、業界団体であるISDAの統一フォーマットを用いることで取引を円滑にする工夫がなされています。しかし、ISDAの契約の変更が必要になることがあり得ます。そこで各主体が一定の契約に批准することで、批准した間で新しい契約に書き換える仕組みが存在しており、これをプロトコルと呼びます。図表3がプロトコルのイメージです。図表3ではA、B、Cがプロトコルに批准することによりその範囲で既存契約を書き換え、合意がなされているといえます。服部(2021b)では「『国際スワップ・デリバティブズ協会(International Swaps and Derivatives Association, ISDA)』が定めるフォールバック規定を取り込んだデリバティブについてはISDA準拠の契約がほとんどであり、契約者が同意した場合、既存契約を書き換える仕組み(プロトコル)が存在しています。このプロトコルに批准することにより、LIBOR移行のプロセスを円滑に進める工夫がなされています」(p.23)としており、LIBORの移行についてプロトコルが用いられた点を指摘しています。4.1  SIMMが用いられる背景トを参照していただければ幸いです。前述の通り、証拠金規制における当初証拠金を算出するうえで、保有期間10日間の99%ヒストリカルVaRが用いられます。そのため、例えば過去のデータを数年間取得して、そのデータを用いてヒストリカルVaRを計算するというのが一案です。もっとも、実務的には、VaR相当額を算出する業界標準の簡易的な計算方法があり、この方法が広く用いられています。この方法はISDAのStandard Initial Margin Model(SIMM)と呼ばれており、この手法はバーゼル規制における市場リスク規制の標準的方式と整合的になっています。本節ではここからSIMMについてごく簡易的に説明をしていきます。実務的にSIMMが活用されている理由は複数あります。第一に、前述の通り、証拠金規制ではお互いに当初証拠金を受け渡しますから、その金額は膨大になります。そのような中、各金融機関がそれぞれ異なる計算方法を用いた場合、受け渡す証拠金に大きな違いが生まれ、混乱が生じる可能性があります。そこで各金融機関がSIMMという統一のフレームワークを用いることで、算出される証拠金に大きな乖離が生まれることを防ぐことが可能になります*18。第二に、膨大にあるデリバティブ取引に関するヒストリカルVaRを計算することは非常に手間がかかります。その一方、SIMMを用いれば非常に簡易的にヒストリカルVaR相当額を算出することができます。SIMMの仮定は、専門家から見ると驚くくらいシンプルですが、その一方で保守的に算出する工夫もなされており、十分な証拠金の受け渡しが可能になっています(詳細は後述します)。

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