ファイナンス 2022年8月号 No.681
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CSA契約がないため勝ちポジションでも証拠金が得られない勝ちポジション証拠金負けポジション読者CSA契約により証拠金を渡す勝ちポジションから証拠金は得られないのでこの分の証拠金を調達コストを払って調達してくる必要がある証拠金金融機関B*14) グレゴリー(2018)のp.83を参照。*15) 三菱東京UFJ銀行(2014)を参照しています。*16) 証拠金規制に関係ないデリバティブついては従来のCSAが用いられることがあります。なお、CSAは日本法版CSA、NY州法版CSAなど複数ある*17) 例えば、残高が3,000億円以上の金融機関には変動証拠金は毎日受け渡す必要がありますが、これ以外の金融機関には、日次よりも低頻度で定期的点に注意が必要です。に変動証拠金の受け渡しが求められるなど、後者は若干緩やかな規制になっています。図表2 取引相手の一方にCSA契約がないケース金融機関A2016年以降、証拠金規制の導入により厳密な証拠金の受け渡しが求められるようになったことで、証拠金規制の内容と整合的なCSA契約の締結がデリバティブ取引で求められるようになりました。ISDAマスターそのものは1985年に導入され*14、CSA契約は1994年から1995年にかけて導入*15されたとされています。当初の利用者は大手の金融機関に限定されていましたが、金融危機を受けて厳格な証拠金の受け渡しが求められるようになりました。証拠金規制においては、当初証拠金と変動証拠金それぞれに対して、証拠金規制対応のCSA契約の雛形が公表されています*16。証拠金規制に対応するため、既存のCSA契約について変更を加えたり、規制に対応した新規のCSA契約を締結し直すことが行われています。前述のとおり、証拠金規制は大規模な金融機関に課されているものの、小規模の金融機関についても監督指針を通じて変動証拠金についてCSA契約の締結が求められている点には注意が必要です。具体的にはOTCデリバティブ取引残高が3,000億円以上の金融機関に対しては金融商品取引業等に関する内閣府令(業等府令)に基づき、変動証拠金について規制が課されています。加えて、3,000億円未満である金融機関についても、CSAの締結による変動証拠金の受け渡しについては監督指針に基づく規制が課されています。例えば大規模な金融機関と小規模な金融機関の間で中央清算機関におけるクリアリングがなされないOTCデリバティブ契約を結んだ場合、CSA契約の締結が求められることになります(この場合、少し緩やかな規制になっています*17)。このようにCSA契約を通じて広い主体に対して証拠金が求められることは、もちろん金融危機を防ぐという側面もありますが、金融機関にとってもプラスに寄与しえます。例えば、読者が比較的小規模の金融機関(金融機関A)とデリバティブ取引を行ったとします。そのヘッジのため、大規模の金融機関(金融機関B)と、逆方向のデリバティブ取引を行ったとします。この場合、ヘッジをしているため、一方の取引の損益がプラスであれば、他方はマイナスになります。もっとも、もし仮に金融機関Aとの間でCSA契約がなされていないと、例えば、読者が小規模の金融機関Aとの取引で勝ちのポジションである場合、大規模の金融機関(B)には変動証拠金を差し出さなければならない一方、小規模の金融機関(A)からは受け取れないということが起こります(図表2)。この場合、読者はこの証拠金を調達してこなければなりません。実は、金融危機時には勝ちポジションの相手から証拠金を得られないことで資金がショートするということが問題になったのですが、仮に、金融機関AともCSA契約を結ぶことができれば、金融機関Aから証拠金を受け取ることができますから、資金のショートを防ぐことができます。このような観点でみると、多くの金融機関に証拠金取引を求めることは金融システムの安定化に寄与するといえます(この点について後ほど違う観点で議論します)。前述のとおり、CSA契約とはISDAマスターの付属契約ですが、実際のCSA契約では証拠金について詳細に規定されています。ISDAマスターやCSA契約の詳細に触れることは本稿の目的を超えるため、東京三菱UFJ銀行(2014)など実務家向けに記載されたテキス 16 ファイナンス 2022 Aug.

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