ファイナンス 2022年8月号 No.681
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2証拠金規制2.1 証拠金規制の概要1はじめに筆者が記載した「OTCデリバティブ規制入門」(服部, 2022)では金融危機以降、OTC(Over-the-Counter, 店頭)デリバティブ市場において導入された規制改革の概要とともに、中央清算機関について説明を行いました。金融危機以降、その反省から、標準的なOTCデリバティブ取引において中央清算機関(Central Counterparty, CCP)で清算を行うことを促す改革がなされました。もっとも、現時点でも日本証券クリアリング機構(Japan Securities Clearing Corporation, JSCC)において中央清算がなされるOTCデリバティブは金利スワップやクレジット・デフォルト・スワップ(Credit Default Swap, CDS)にとどまります。そのため、例えば、為替スワップなどのように流動性が高いOTCデリバティブを含め、多くのOTCデリバティブ取引について中央清算機関でクリアリングされていないのが現状といえます。*1中央清算機関でクリアリングがなされていないOTCデリバティブ取引について規制を課すため、現在、証拠金規制と呼ばれる規制が導入されています。証拠金規制とは、中央清算されないOTCデリバティブ取引に関し、大手金融機関同士の取引について当初証拠金を受け渡すとともに、期中に変動証拠金を受け渡すことを義務化する規制です。この規制は金融危機を再び起こさないための規制といえますが、本稿で説明する通り、受け渡すこととなる証拠金の金額が巨額になりえることから、金融機関による反対が大きかった規制の一つとされています。https://sites.google.com/site/hattori0819/*1) 本稿の作成にあたって、富安弘毅氏、仲田信平氏、中山季之氏、藤原哉氏等、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。*2) 下記をご参照ください。 東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1本稿では、筆者が記載した「OTCデリバティブ規制入門」(服部, 2022)を前提とさせていただくため、OTCデリバティブ規制全体について確認が必要な読者はまずは同論文をご一読いただければ幸いです。なお、筆者が記載してきた債券や国債の一連の入門シリーズは筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。服部(2022)で説明した通り、OTCデリバティブ規制では、標準的なOTCデリバティブ取引について中央清算機関でクリアリングする義務が課され、これを清算集中義務といいました。もっとも、中央清算機関で清算されるOTCデリバティブ取引は、金利スワップやCDSなど一部にとどまります。そのため、中央清算機関でクリアリングされないOTCデリバティブへの規制も必要となります。証拠金規制の導入に際し、2011年に実施されたG20カンヌ・サミットにおいて、国際的に整合的な証拠金規制に係る基準を策定することが求められました。それを受けて、2013年に、バーゼル銀行監督委員会(Basel Committee on Banking Supervision, BCBS)と証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions, IOSCO)が証拠金規制のフレームワークを公表しました。その後、各国で段階的な導入が始まります。米国と日本では、2016年9月から、欧州でも2017年2月から段階適用が開始されました。服部(2022)で説明したとおり、証拠金は当初証 12 ファイナンス 2022 Aug.デリバティブ規制について―証拠金規制入門―中央清算されない店頭(OTC)

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