ファイナンス 2022年7月号 No.680
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化に多額の予算を投じてきたのに、うまく機能していない理由を考えるべきだと思います。登録制のかかりつけ医制度の良い点として、患者に関するデータを一元化して蓄積することができるという点があります。オランダでは1970年代初めから、GP(家庭医)の診療内容が継続して蓄積されています。コンピューターが普及する以前から紙の分類カードで始まりました。私が2011年にオランダを訪ねた時、オランダ全国各地での疾患の発生率や有病率、そしてそのトレンドなどを、GPのパソコンからオンラインで簡単に参照できることを目の前で見せてもらいました。そうしたデータベースを元に、オランダではGPによる臨床研究へと発展させることを容易にしています。登録制のある国はどこも同様です。今回のCOVID-19でも、ワクチン接種をした人と接種しなかった人が、その後どうなったのか、イギリスなどでも、こうしたデータに基づいて自治体や国がワクチンの種類や接種時期を決めることができます。デジタル化が注目されていますが、かかりつけ医(GP)の登録制により、地域住民のデータが一元化されているのが大きいでしょう。*14) https://jbgm.org 68 ファイナンス 2022 Jul.5.最後に網谷:療所に公的役割を担わせる、総合診療専門医を育てる日本専門医機構での議論*14をしっかり監視するなどで大きく変わるのではないでしょうか。地域住民にとっても診療現場で働く医療者にとってもその方が利点が多いと思います。かかりつけ医については、標準化した教育を受けた人によって、適切な支払制度の下で診療を受けられるという制度にしていくと同時に、利用者サイドにもメリットを理解してもらえるようアプローチしないといけません。網谷:日本の医療制度は民間の保険に加入する必要がないほど手厚いと聞くこともあり、利用者サイドとしては海外に誇れる充実した制度であると感じていましたが、医療提供者側の立場で考えたときに、我々が当たり前のように享受している制度の裏に実は過剰・過少の問題が発生しているということを今回の特集号を見て気づかされました。井伊:日本の公的医療保険は、民間保険に入る必要がないくらい寛容すぎる保険内容ですが、PCR検査を受けたくても受けられないとか自宅療養中に亡くなってしまうという状況は、完全に制度の谷間に落ちていますよね。情報にアクセスできる人は良いですが、例えばシングルマザーは子どもの医療費が無料といってもそもそもそのことを知らないとか、無料といってもどこを受診すれば良いのかわからない、小児科なのか皮膚科なのかわからないとか、全部自分で決めないといけないのが日本の医療制度です。運良く良い先生に巡り会えればいいですが、医療サービスに手厚くお金をかけているのに、制度の隙間に落ちてしまう人がいるというのは、かかりつけ医が機能していないということの表れだと思います。また、コロナの混乱は保健所の予算を少なくしたことが要因だとも言われていますが、実は保健師の数はコロナの前から増えています。井伊・森山・渡辺論文でも議論していますが、根本的な問題の1つは日本の診療所が公的な役割を担っていないことで、単に保健所の予算を増やせば良いということではないと思います。フィナンシャル・レビューの特集をまとめたご経験から、何か伝えたいこと等があれば教えてください。井伊:ここに書いてあることが絶対正しいというわけではなく、例えば他の地域で見たら違うストーリーも見えてくると思います。本特集号を広く読んでもらって、批判するべきところは批判していただき、これをきっかけに各方面の方達と色々と議論ができたら嬉しいです。コラム かかりつけ医制度のメリット:データの蓄積コロナに関する検証について、日本ではデジタル化の遅れがよく指摘されています。改めて、今までデジタル

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