ファイナンス 2022年7月号 No.680
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ファイナンス 2022 Jul. 67*11) 「山形県置賜二次保健医療圏における急性期病院の治療アウトカムの比較」https://www.mof.go.jp/pri/publication/■nancial_review/fr_list8/r148/r148_11.pdf*12) 参考:西沢和彦「『総保健医療支出』推計の問題点」(FR第123号)http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11457096/www.mof.go.jp/pri/publication/■nancial_review/fr_list7/r123/r123_14.pdf西沢和彦「健康支出(Health expenditure)における予防支出推計の改善に向けて─『社会保障施策に要する経費』を用いた再推計─」https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/■le/report/jrireview/pdf/13437.pdf*13) 本特集号の■西・井伊論文による日本語訳を使用。PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 9キング」について、10未満の症例だとマスキングがかかってしまい、0なのか1~9なのかもわからない、ということが発生しています。1入院当たりの定額払いの導入は過少医療につながるという意見がありますが、この点を検証するうえでも医療の質の評価は重要になってきます。日本は急性期病院の数が多く病院単位の症例数が少なくなる傾向があるため少数事例に関するデータはとても大切です。質の評価をする際に、それらがマスキングされるのは問題です。そういった点でも伊藤他論文*11の分析や問題提起は重要です。また、財政への影響についてですが、特集タイトルに含んでいるにもかかわらずあまり財政への影響に関する分析ができていない点は序文でより詳しく説明するべきでした。その理由として、マイクロのデータは以前と比べて入手できるようになってきましたが、財政への影響をマクロで語りたいと思ってもHealth expenditure(保健医療支出)についてはデータが不十分なのです。Health expenditureを考えるうえでSHA(system of health accounts)の整備が不可欠です*12。「日本の医療費がGDPに占める割合は世界一の高齢化の割には高くない、だからコストパフォーマンスが良い」などといわれることがありますが、これはhealth expenditureの推計が捉えていないさまざまな漏れがあるためだと考えられます。網谷:過剰医療や過少医療の実態を把握し、それらを実際に是正していくためには、今後行政によるどのような取組みが必要とされるでしょうか。また、財務総研のような研究機関の果たすべき役割は何でしょうか。井伊:財務総研には今回のようなちょっと変わったテーマの特集を責任編集する機会をいただき感謝しています。行政の役割ですが、日本の医療制度は公的なお金で運営されているので、医療界は公的な任務をもっと自覚するべきだと思います。イギリスの診療所も民間医療機関なので運営体系に関してはかなり自由ですが、税金で運営されているので診療内容や財務状況など厳しく監督されています。日本も民間医療機関であろうと公的な役割を担っているという責任を自覚し、質のチェックや財務諸表の開示など、行政が医療界に対しもう少しガバナンスをきかせることも重要です。網谷:今まで医療関係者サイド、行政サイドの観点からお話をお伺いしておりましたが、最後に利用者サイドの観点についてもお伺いしたく存じます。今後医療提供体制の改革を進めていく中で、従来は各自治体が実施する検診でカバーされており、一方で過剰といわれるものについて、仮に削減の方向に動いたとき、どのような問題が生まれると考えられますか。井伊:葛西・井伊論文で肺がん検診を例にとりましたが、イギリスの場合、肺がん検診が有効であるというエビデンスがないという理由で肺がん検診をなくしました。ただ、なくしたからといって放っておかれているわけではなく、NICE(National Institute for Health and Care Excellence)という第三者機関が『がんが疑われる場合:発見と紹介(Suspected cancer:recognition and referral)』*13というガイドラインを作成し、推奨事項を具体的に示しています(例えば、葛西・井伊論文の図1)。日本では一度公的医療保険に導入されると、有用性があるというエビデンスがないのに、なかなか公的保険から外せません。しかし一方で「エビデンスがないので検診をやめます」として対象から外してしまうと、検診する事が望ましい場合でも検査がされず放っておかれる可能性があります。NICEのようなガイドラインがなく、医師と患者が共同意思決定をする仕組みもない中でただ検診を導入するとか、削減する、というだけではうまくいかないでしょう。支払制度を変える、医療機関を機能分化させる、診

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