ファイナンス 2022年7月号 No.680
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ファイナンス 2022 Jul. 63 *6) 「糖尿病健診における過剰と過少―医療資源の効率利用に関する研究―」https://www.mof.go.jp/pri/publication/■nancial_review/fr_list8/r148/r148_02.pdfPRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 9いうのではなくて、情報を提供して適切に医療機関にかかるための仕組みとして整備する必要がありますし、利用者サイドにその利点を理解してもらうことも重要だと思います。今回の特集号では過剰医療だけでなく過少医療についても焦点をあてています。要するに現在の医療提供体制は効率的でない、資源配分がうまくいっていないということです。これは前回FRを書いた際、アンケート調査に基づいた分析から気が付いたのですが、日本は受診回数が世界一といっても、医療機関に行く人は頻回に受診しますが、全く行かない人も結構多いのです。混んでいるから行かないとか、子どもの予防接種は行くけれど自分は二の次とか。そういう時にGPがいればワンストップサービスのように子どもの受診のついでに婦人科のがん検診などできるのですが、日本はそうした制度でないので、必要な医療やケアを受けないもしくは受けられない(過少医療)ことが少なくないのです。皆保険といっても(縄田・井伊・葛西論文*6でも述べていますが)制度の谷間に落ちてしまう人が存在しています。健康診断と医療が連携しておらず、健康診断で問題が見つかっても医療につながっていません。そもそも健康診断とかがん検診の定義そのものが日本ではあやふやで、葛西・井伊論文で述べているように、スクリーニングの定義を再考して臨床現場の在り方を考えないと、単に自己負担を増やして無駄な医療をなくしましょうというだけでは必要な人に必要な医療やケアが届かないことになります。古村:自分は子どもを持った時に、タイムリーに専門家に相談できることの重要性を強く感じました。イギリスではGPに聞けばいいという一方でGPの受診が2週間待ちなどと聞きますが…。井伊:受診の内容によります。GPは24時間働いているわけではないので、例えば夜の救急では時間外診療や電話などで対応してもらえます。この点はイギリスのGPの方達からも日本人からよく聞かれる質問だと聞きます。ただし、優先順位を付けられるので、例えばCTを撮りたいと言っても必要ないと判断されれば、日本のようにすぐには撮ってくれないとか、白内障の手術なども民間保険に入っているとすぐ手術してもらえるけれど、そうでないとGPを通して1年待ちといったこともあります。このように、緊急度が低いものについては後に回されるという意味での差別化はあります。これはすぐ病院、これは自宅療養で良いなど、トリアージをしっかりやるので、コロナでも力を発揮したのではないでしょうか。日本はそれがなかなかできていなくて、みんなとりあえず入院しましょうとなってしまい、病床が軽症患者で埋まってしまったというようなことも起きました。網谷:かかりつけ医の定義について、利用者サイドの認識もあいまいだと感じました。かかりつけ医の運営に関する課題も含め、医療提供体制の質を確保するためには制度設計にあたってどのような部分が重要になってくるとお考えですか。井伊:コロナで明らかになったことでもありますが、日本は中小の病院がとても多く、病床当たりの医師や看護師の数が非常に少ない低密度の医療提供体制になっています。また、医療機関の機能分化ができていません。平時から患者の奪い合いが起きていて、その一つの大きな問題は外来が出来高払いであることだと思います。薄利多売で、一点でも多く稼ぐために検査数を増やして薬を出すことが優先され、診療現場では経営安定化のため、少しでも外来を増やして必要以上に入院させるという状況になっています。制度設計にあたって、井伊・森山・渡辺論文でも書きましたが、支払制度(報酬制度)を変える必要があります。例えば外来には人頭払い(診療所に登録している患者の数に応じて収入が決まる)とか、入院だと1疾病の定額払い(現在のDPCは1日当たりの定額)

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