ファイナンス 2022年7月号 No.680
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*2) DPC/PDPS(Diagnosis Procedure Combination/Per-Diem Payment System)という支払制度を導入している病院のデータ。*3) 「COVID-19パンデミックでの患者の受療行動と医療機関の収益への影響」https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list8/*4) 「ケアの現場で陥りやすい過剰・過少医療を減らすために:EBM 教育と患者中心の医療の役割」https://www.mof.go.jp/pri/publication/■nancial_*5) イギリス国民は、救急医療の場合を除き、あらかじめ登録したGPの診察を受けた上で、必要に応じ、GPの紹介により病院の専門医を受診する仕組みr148/r148_14.pdfreview/fr_list8/r148/r148_05.pdfとなっています。(出典:厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kaigai/21/dl/t1-07.pdf)3. 「過剰」「過少」医療から見る日本の課題 62 ファイナンス 2022 Jul.プトデータを分析されているので、DPCのデータ*2とレセプト分析とで補完ができると思いお願いしました。渡辺さんは、研究者ではないですが、分析能力も高く、志の高いコンサルタントです。この2年間コロナに関する研究会でご一緒していて、昨年10月の財政審では有識者としてデータ分析をもとに報告しました。貴重なデータも多いので、財務省の議事録としてだけでなく、データを最新のものにアップデートして論文として残すと良いのではということで急遽執筆しました。結果として、井伊・森山・渡辺論文*3はコロナについてということもあり、外部からの関心が高いです。討論者としては、同僚でもある中医協会長の小塩先生、中医協の元メンバーで医療政策がご専門である印南先生、井深先生は一橋で同僚だった時期もあり、加えて伊藤先生と同年代でこれから医療経済を担っていく世代代表ということでお願いしました。網谷:続きまして、過剰医療と過少医療からみる日本の課題についてお伺いしたいと思います。本特集号では海外の医療制度と日本の医療制度との比較を行い、日本の医療制度の下で生じる「過剰」と「過少」を指摘しておられますが、なぜ日本において「過剰」と「過少」が是正されにくいのか、諸外国との比較において、ガバナンス構造や国民のリスクに対する意識など、どのような理由が考えられるでしょうか。井伊:葛西・井伊論文*4でも述べているように、日本だけでなく海外でも難しい課題だと思いますが、日本では地域住民の健康に責任を持つという意味でのかかりつけ医の制度を導入しなかったことが大きいと思います。検査すればするほど良いとか、高度技術イコール良い医療ではない、ということをまずは地域住民に伝えなければなりません。もちろん高度技術が必要な場合もあり、それを患者自身で判断することは難しいので、医療提供者や行政の役割が(その判断を行う際に)とても重要です。しかし日本は制度が整っていません。情報が適切に提供されていれば、患者も賢く使えると思うのですが…。網谷:そういった意味では、患者自身が自ら手に入れることができる情報は膨大だけれども、実際何が正しい情報でどの治療が適切かという判断は、専門的な知見を持っている方でないと難しい領域ということですね。井伊:一橋大学で一緒に研究している中村良太先生は、イギリスでのご経験から「イギリスだと何かあれば自分のGP(general practitioner,家庭医)*5に聞けばいい。インターネットで調べる時もNHS(英国の国民保健サービス:National Health Service)が運営している情報サイトがわかりやすい」と言っていました。日本では体調に異変を感じたとき、まずインターネット等で症状や医療機関を調べて、どの病院の何科に行けばいいのか自分で判断してから病院にアクセスするという流れが一般的かと思います。自分で判断しないといけないので、自己責任になってしまうんですよね。かかりつけ医をイギリスのように登録制にするのが良いのかはいろいろな意見がありますが、皆保険の国は登録制の所が多いです。医療へのフリーアクセスが制限されることの懸念はありますが、登録した所にまずかかり、そこの医師なり診療所が責任をもってその患者をケアするため、安心感の方が大きいのではないでしょうか。今回のコロナでいえば、例えばPCR検査が必要なのか、自宅療養を継続していて本当に大丈夫なのかといった判断や説明を全部担ってくれるのが本来のかかりつけ医の在り方ですよね。ですから、制限されると

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