ファイナンス 2022年7月号 No.680
65/90

ファイナンス 2022 Jul. 61 *1) https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11565338/www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2015/zk104_mokuji.htmPRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 91.はじめに網谷:2.本特集号のねらい、執筆者について網谷:続いて、今回の特集号についての質問をさせていただきたいと思います。井伊先生の特集号の特徴は、各論文に加えて討論者の方のコメントも掲載されており、コメントとあわせて読むことでより議論のポイントが明確になる点であると感じております。今回の各論文について、どのようなお考えで執筆を依頼されたのか、加えて、執筆者はどのような方々なのか、簡単にご紹介いただけますでしょうか。井伊:まず、医療と経済とをバランスよく考察できる研究者であることと、日本の医療の現場をきちんと理解したうえで国際的な視野を持って研究したり分析している人にお願いしました。これは討論者も同様です。医療の分野では(言い方が悪いですが)利用できるデータが沢山あるので、現場の関心というよりは計量分析ができてトップジャーナルに載ればそれでいいといった研究が少なくありませんが、私が求めていたのは現場の重要なリサーチクエスチョンを設定できる人でした。そこで、国際的なベンチマーキングやEBM(Evidence-based medicine)に詳しい葛西先生にお願いしました。統計学や計量経済学の専門家ということで以前から一緒に研究をしている縄田先生にも入っていただきました。伊藤先生は、若手の医療経済学者を代表するお一人です。元々伊藤元重先生と国際貿易の研究をされていて、広い視野をお持ちだし、医療の政策と理論と実証分析とをバランス良くできる方です。政府の様々な政策議論にも関わっていて発信力もあります。池田先生・村上先生は伊藤先生の研究仲間で、今回参画いただきました。菅家先生は福島県立医大におられるので、山形の地域の病院間の連携について現場からの視点で考察していただけるということでお願いをしました。森山先生も長くお付き合いのある研究仲間です。前回のFRで討論者をお願いしていますし、財務総研の「医療・介護に関する研究会」*1では論文を執筆してくださいました。私と問題意識が似ていて、また、レセ本特集号では「過剰医療と過少医療の実態:財政への影響」をテーマとしていますが、井伊先生が「医療経済学」を研究しようと志したきっかけなどがあれば教えてください。井伊教授(以下、井伊):高校生の時から国際機関で働くことを希望していました。欧米の大学院のPh.D.が必要ということで、ICU(国際基督教大学)からアメリカのウィスコンシン大学の大学院に進みました。当時は途上国の貧困問題に関心があり、大学院生の時に、ワシントンDCの世界銀行の調査局で働く機会がありました。当時、Princeton大学のAngus Deatonなどが中心となり、途上国の家計調査のミクロデータを集めて分析するプロジェクトを世界銀行が始めていました。私はボリビアの家計調査のデータ分析を担当しました。ボリビアは平均寿命や乳幼児死亡率といった公衆衛生の指標がとても悪く、特にミクロの分析をしている人がいなかったこともあり、その分野で博士論文を書きました。その後、1995年に横浜国立大学の経済学部で教えることになったのですが、日本に帰る前に伊藤隆敏先生や八田達夫先生が、「日本に戻るのであれば、日本の失敗例も含めて日本のことをしっかり学んだうえで途上国にもアドバイスする方が途上国にとってもありがたいので、もっと日本のことを勉強しなさい」とアドバイスしてくださいました。ちょうど1990年代半ばから後半頃にかけて、医療制度に関してもデータに基づいて分析しようという動向になってきたところでした。そこで日本の制度について研究を始めてみたら課題がたくさんあって、それが専門になりました。国際比較にはずっと関心がありますが、最近では途上国というより、もっぱら日本の医療問題を研究しています。

元のページ  ../index.html#65

このブックを見る