ファイナンス 2022年7月号 No.680
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58 ファイナンス 2022 Jul.(2)Hal Connolly元選手との交流(3)良き指導者を育成することが大事(4)父の教え:練習は裏切る(5)不易流行(6)成功体験と失敗体験いな、いつか私もオリンピックに出場したいな、と思いました。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会は残念ながら無観客開催となりましたが、幼いころ私が父に憧れたように、子供たちへの影響が少なからずあるのではないかと思います。父がロサンゼルスオリンピックに出場する頃、私もアメリカで現地の学校に行き、ハンマー投を教わることもありました。1984年にハンマー投元選手のHal Connolly氏が国際陸上連盟で初心者に教えるハンマー投指導のためのムービーを作るということで、私もムービーに出させてもらいました。フィルムが出来上がった時にはとても嬉しかったです。Hal Connolly氏とはその後も交流を続け、2004年アテネオリンピックの後でHal Connolly氏にお会いした時には、私の金メダル受賞を大変喜んでくださいました。私にとってのHal Connolly氏のように、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会で活躍した選手たちは子供たちに「こういう選手になりたい」という夢を与えることができると思いますので、選手と子供たちとの交流やオリンピック・パラリンピック競技大会を通じた教育はとても大切だと思います。スポーツで大成するには、良き師につくことが大切です。私はたまたまスポーツ科学等のきちんとした知見を持った父に教わったので伸びたのだと思いますが、発育・発達に応じて運動することが大切です。発育・発達に合わせた指導をしないと子供はスポーツが嫌いになってしまいますので、こうしたことをよく知っているよい指導者を育成していくことが大切です。最初に教わる指導者の影響は大きいと思いますし、幼少期には運動の楽しさとよい動きを身に付けさせることが重要です。よい動きを身に付ければ一生ものです。父が私に教えてくれたことは「練習は裏切る」ということです。「練習は裏切らない」と信じ込んでトレーニングをしている方がいますが、ただ量をこなすだけでは駄目で、父もスランプから抜け出そうと闇雲に練習量を増やして、かえってひどい状態になった苦い経験があったそうです。こうしたことを父から聞かされていたので、私も父に続く成績を残すことができたのかなと思います。自分を客観的にしっかり見つめていくこと、これは科学するということだと思いますが、とても大事なことだと思います。いつまでも変わらない本質的なものの中に変化する新しいものを取り入れていく「不易流行」という言葉が好きです。変わらないものと変わるもののバランスはその時々で変わると思いますが、時代に合わせて変化していくことも不易を守っていくことにもなると思いますし、改革する気持ちを持つことが大切なのではないかと思います。長い競技人生の中で体のメンテナンスをしないといけない年もありましたが、そういう時期に私は研究をしたり、様々な新しいトレーニングや運動をしていました。成功体験が邪魔をするということも覚えておく必要があると思います。2004年のアテネ大会で金メダルを獲得してから10年以上競技を続けましたが、もし金メダルを獲得した時に「自分にとって最高の状況ができたからもういい」と思ってしまったら競技を続けなかったと思いますし、挑戦することもなかったと思います。成功したがゆえに挑戦することを恐れてしまうようなことがあってはいけないと思います。一方、失敗を体験することがむしろ人を大きくしていくこともありますので、両方を考えながら取り組むことが大切です。私はオリンピックと世界選手権に代表として14回出場しましたが、メダルを獲得できたのは5回でした。9回はノーメダルで、実は予選落ちや怪我で出場できなかったこともあります。できたところばかりではなくて、上手くいかなくてそれを乗り越えたところにこそ、多くの方に共感して

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