ファイナンス 2022年7月号 No.680
55/90

1 はじめに初めまして、国際通貨基金(IMF)日本理事室の菊池と申します。私は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大から約3ヶ月が経過した2020年7月に現職に着任しました。COVID-19パンデミックは世界中の国々に多大な経済的影響をもたらしましたが、特に低所得国への影響は甚大で、低所得国の多額の資金ニーズに対応し、その経済回復・成長を支援していくことは、国際社会にとって喫緊の課題となりました。IMFも、その使命である、すべての加盟国の持続可能な経済成長と繁栄の実現のため、パンデミック発生直後から、低所得国支援の強化に向け様々な対応・取組を行ってきました。本稿では、パンデミック後これまでの約2年間にわたり、IMFがどのように低所得国支援を強化してきたのかを概観することを目的とし、その主な対応である、(1)大災害抑制・救済基金を通じた債務救済、(2)緊急融資枠の拡大、貧困削減・成長トラストを通じた融資制度の見直し、(3)特別引出権の配分、(4)能力開発の強化、(5)強靭性・持続可能性トラストの設立について、述べたいと思います。なお、本文中の意見、感想等については筆者の個人的な意見であり、また誤りがある場合も筆者個人に責任があります。 2 大災害抑制・救済基金(CCRT)による最貧国への2年間の債務救済大災害抑制・救済基金(CCRT)は、壊滅的な自然災害や、大規模かつ急速に拡大する公衆衛生上の緊急事態が発生した場合に、IMFが適格の低所得国*1に対して債務救済を行うための基金です。2010年のハイチ地震を契機に、大規模災害に見舞われた貧困国がIMFに対して追う債務を救済するため、CCRTの前身となるPCDR基金が設立されました。その後2015年に、前年のエボラ流行を機に、感染症流行国に対する債務救済が対象に加えられ、名称もCCRTに改称されました。FOREIGNWATCHER*1) 1人あたりGNIが、世界銀行グループ・国際開発協会(IDA)の適格基準以下の国(2022会計年度:$1,205)、及び、1人あたりGNIがIDA適格基準の2倍以下の、人口150万人以下の国。ファイナンス 2022 Jul. 51(写真1)IMF本部 国際通貨基金日本理事室 理事補 菊池 由紀恵CCRTの下で行われる、感染症流行国に対する債務海外ウォッチャーパンデミック下における国際通貨基金(IMF)の低所得国支援

元のページ  ../index.html#55

このブックを見る