ファイナンス 2022年7月号 No.680
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ファイナンス 2022 Jul. 49 2.おわりに発展し続ける地下資金対策謝辞今般の連載にとって最終章となる今回に、デジタル資産と地下資金対策という、最も今日的なテーマを選んだ。これは、地下資金対策が既に態様の確立したものでは全くなく、現在進行形で発展を続けるものであることを象徴する存在である。しかし、この枠組みが発展を続けている、また続けなくてはならないのは、何もデジタル資産のような新しい現象に対応する為だけではない。以前見た国籍ロンダリングのような問題は、従来より潜在的に存在していた問題ではあるが、地下資金対策の側が未だ対応できていない内に、そのリスクが顕在化してきた例と言える。この意味では、地下資金の巨大なフローを捉えようという国際社会の営為は、あらゆる意味で正にワーク・イン・プログレスの企てなのである。日本としても、FATF基準への遵守を目指すことはあくまでもボトムラインに過ぎず、より良い地下資金対策の枠組みを築いていくべく、積極的に国際的な議論に貢献していかなければなるまい。しばしば出現する、あらゆる政策分野に共通する罠は、議論が専門化・技術化する過程でそれに関わる人々が自覚なく視野狭窄に陥り、ディテールが自己目的化してしまうことである。巨大隕石が衝突しようとしているのに気付かず、惑星の上で僅かな領土を巡る内輪の戦争にうつつを抜かすような愚に陥っていないか、どの国も不断に自己検証を繰り返す必要があるだろう。そして、今や国家間のルール・メイキングは、その射程に収められる民間セクターの国際的競争力にも大きく影響する、経済戦略としての側面も否定できない。今日、欧州が自動車産業等に関わる環境政策を戦略的に主導していることは、その最たる例である。幸いにして我が国は、地下資金対策のルール・メイキング機能を担うFATF本体のメンバーであると同時に、OECD、G7といった先進国間の枠組みにも名を連ね、また、ASEANプラス3や東アジア共同体、APEC等の地域的枠組においても、主導的役割を担っている。これは、地下資金対策の制度作りにおいて、日本が国際的な議論をリードできる立場にあるということに他ならない。このようなアドバンテージを十分に活かせるよう、あるべき地下資金対策に向けて、まずは国内での制度理解を深め、それに根差した将来的議論を充実させていくことが求められる。この瞬間も還流し続ける地下資金との闘いにおいて、主体性・能動性の欠如こそが、最大の内なる敵なのである。今回の連載は当初の想定を遥かに超え、期間としてちょうど1年、分量は全体で100ページを超える、大部のものとなった。まずは、このような異例のボリュームの紙幅を下さり、また、長期に亘る毎月の校正作業に根気良くお付き合い頂いた財務省文書課広報室に、感謝申し上げる。そして今回の連載執筆に当たっては、多くの方から貴重なご知見や資料提供を頂いた。法曹界からは、犯収法・外為法をご専門としている中崎隆弁護士と、特に頻繁に意見交換させて頂いた。また、米国制裁法の中島和穂弁護士、反社対応の竹内朗及び大野徹也弁護士からは、豊富な実務経験と職業的使命感に裏打ちされた、貴重なお話しを伺うことができた。アカデミアからは、防衛大学校・石井由梨佳准教授には、国際公法の俯瞰的観点から、有益なご助言を数多く頂いた。没収については、刑法学の東京大学・樋口亮介教授、慶応義塾大学・佐藤拓磨教授、同志社大学・川崎友巳教授を中心としたエキスパートの方々との、一連のブレイン・ストーミングは、考えをまとめるにあたって貴重な糧となった。その他にも、以前法務省の研究会でも席を並べさせて頂いた東京大学・加藤貴仁教授(商法)、また、租税法関係では同神山弘行教授及び一橋大学・吉村政穂教授にも、大変有益なインプットの機会を頂いた。元国連安保理北朝鮮制裁パネル委員・竹内舞子氏とは、現在ご研究の拠点を置かれているニューヨークに筆者が赴いた際に対面でお会いし、制裁関係の議論にお付き合い頂いた。なお、これらの方々の内複数名が、筆者の大学学部時代からの友人関係であったり、そこから更にご紹介を頂く形で、今回ご連絡を取らせて頂いたものである。20年越しでの貴重なご縁を、大変有難く感じている。現職の霞が関や日銀職員の方々については、逐一お名前を上げることはできないが、筆者が前職からともに働いていた、財務省国際局調査課の同僚達をはじ

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