ファイナンス 2022年7月号 No.680
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*5) 『ブロックチェーンを用いた金融取引のプライバシー保護と追跡可能性に関する調査研究』金融庁・三菱総合研究所、2019年3月20日ファイナンス 2022 Jul. 43アドレス■■アドレス■■アドレス■■アドレスアドレス■■アドレス匿名ネットワークブロックチェーンアプリケーションレイヤー■ ■レイヤー■インターネットレイヤー実世界レイヤー■■図表4:ブロックチェーン技術の下での金融取引に係る匿名化技術(出典:金融庁・三菱総合研究所(2019)) 事後的にカネの流れを探るに当たっては、追跡可能性(traceability)が決定的に重要である。これは、匿名性(anonymity)と対置される概念であり、不審なカネの流れを関知した際に、事後的にどの程度それを追えるかを意味する。追跡可能性がない最たるものは、現金である。よって序章で説明した通り、マネロンにおいてはカネの流れの何れかの段階で現金化を介在させることが、有効な手段となる。しかし現金はかさばるため、多額の犯罪収益等を保管・移転するには適さない。現金は、幸いにしてそのような物理的制約が内在するため、マネロン等の媒体になる機会が自ずからある程度限定されている。他方、銀行間送金等は多額のカネを動かせる反面、追跡可能な電磁的記録が残る。このように、通常は匿名性と移転容易性の間にトレードオフが存在するのである。しかしここで、仮に世の中のデジタル資産に追跡可能性がないということであれば、犯罪者目線からは匿名性と移転容易性の「良いところ取り」である。地下資金対策の観点からは、物理的制約が一切存在しない「現金」を、マネロン等の手段として提供することと同義であると言って過言ではない。この点、ブロックチェーン技術の下での金融取引に係る追跡可能性は、2019年に金融庁による委託調査アプリケーションレイヤーブロックチェーン:ミキシング、匿名通貨等匿名ネットワーク:■■■秘匿サービス、匿名チャットツール等■ ■レイヤー■インターネットレイヤー■■■オニオンルーティング、■ ■、■■■■■■■等実世界レイヤーフリー■■■■、プリペイド■■■、中古デバイス、ビットコイン■■■等が包括的に検討を行っており、その結果は公表されている*5。そして、多くのテクニカル・タームにまぶすことなく、その結論を端的に言えば、その当時の技術水準を前提にする限り、このような追跡可能性についてはほぼ皆無である、という一文に尽きる。それから数年を経て技術水準も急速に向上してきてはいるが、今日現在においても前述の通り、この追跡可能性を逐一捜査・訴追にまで繋げられる程度に特定された形で実現することは、非常にハードルが高い。マトリョーシカというロシアの民芸品がある。これは入れ子構造になった木製の人形であり、開いても開いても、中からまた人形が出てくるものである。デジタル資産の取引を匿名化する手法は、これに似ている。匿名化の技術は様々にあるが、大きくは(1)ブロックチェーン技術の中で行われるもの、(2)インターネット内世界における一般的技術として、IPアドレス等を介して行われるもの、(3)我々が存在する実世界において行われるもの、の3つのレイヤーに分けられる。これらについては、(1)~(3)それぞれの中で複数の手法を同時に使うことができ、かつ、(1)~(3)の■■■■ ■匿名化技術の例レイヤー自体も、相互に併用可能である。正に、匿名性のベールを剥がしていってもいつまでも実体に辿り各層毎に匿名化技術が存在するが、それらの利用にあたっての技術的・心理的なハードル着けない、金融取引のマトリョーシカである(図表4)。は低い。

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