ファイナンス 2022年7月号 No.680
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還流する地下資金 国家間の共働・軋轢各国の制度国際規範・設計・実施基準の形成*1) 志波和幸『仮想通貨取引のマネーロンダリング対策の現状〜過渡期にある仮想通貨市場を踏まえ〜』国際金融1319号、2019年4月1日犯罪収益テロ資金核開発等資金刑事政策 外交・安全保障■ デジタル資産に関し、地下資金対策に係る安全性・利便性・プライバシーの3つの要請を、同時に完全な形で実現することは困難。このような緊張関係を正面から認識した上で、社会的な合意としての均衡点を探っていかなければならない。■ 地下資金対策の観点からは、デジタル資産についても捜査・訴追に繋がる追跡可能性までが必要であるが、現在の技術水準では未確立。加えてステーブルコインとP2P取引の普及は、このような困難性に拍車をかける、ゲームチェンジャー。■ 他方で中央銀行デジタル通貨(CBDC)は、デジタル資産に係る地下資金対策を、高い水準で確保するためのツールとなる潜在力を秘める。その制度設計に当たっては、複数の社会的要請をどのように実現させていくか、検討を深める必要。2019年にリブラ創設構想を発表した、フェイスブック社(現メタ社)のマイク・ザッカーバーグCEO(出典:Anthony Quintano from Westminster, United States, CC BY 2.0)―犯罪・テロ・核開発マネーとの闘い―終章:デジタル革命と地下資金 40 ファイナンス 2022 Jul.ビットコインを提唱した謎の人物・ナカモトサトシ氏は、通貨高権を国家の独占から解放し、独立した世界通貨を構想したと言われる。しかし、「仮想通貨」という当初普及した呼称とは裏腹に、ビットコインをはじめとするこれらの資産は、ハイリスク・ハイリターンの投機商品としてブームになって価格が高騰した後、急激な下落を経験した*1。また、大規模な流出事件等も発生し、マネロン等への悪用可能性も指摘されるようになるに連れ、「仮想通貨=いかがわしいもの」といった印象も広まりつつあった。このような中で、2019年にフェイスブック社(現メタ社)によって発表されたのが、リブラと称するステーブルコインの創設構想である。リブラは法定通貨の裏付けを持つことで価値を安定させ、将来的には真に「通貨」としての役割を持ち得るものであると謳われたが、その際に掲げられたスローガンは「金融包摂(financial inclusion)」であった。これは、従来銀行等の金融インフラにアクセスできなかった層にも、金融サービスの恩恵を敷衍させよう、という理念である。リブラ計画自体は各国の反対に遇い凍結されたが、ステーブルコイン創設の構想は、形を変えて既に実現しつつある。しかし、その金融包摂の要請は、地下資金対策上の安全性の要請とは相克を来たし得るものでもあることには、留意しなければならない。IMF法務局 上級顧問(執筆時)  野田 恒平本章の範囲要旨12

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