ファイナンス 2022年7月号 No.680
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移行リスク945749546962870625555100 ・気候変動は企業経営に重要な影響を与えるリスクになる一方で、企業特性によっては、気候変動やそれに係る対応が様々な利益を生む機会にもなり得る。そのため、TCFD提言においては、企業に「リスク」と「機会」双方を投資家の投資判断要素として提供するよう推奨している。・具体的には、リスクとしては、気候変動による物理的リスクと共に、低炭素経済へと移行する中で「政策及び法規制」「技術」「市場」「評判」の変化による移行リスクが挙げられている。一方で、機会としては、気候変動対策のための投資を通じた効率化や、消費者や生産者の選好の移り変わりによる需要増などが挙げられており、こうした低炭素経済へ適応する取組みは、企業にとって競争力が強化され、利益を得るチャンスにもなる(図表7)。・また、そうした気候変動をビジネスチャンスにする取組みには、中長期の投資が不可欠である。そのためにも気候関連リスク及び機会を適切に評価し、自社にもたらす財務的影響を開示することが、投資のための資金調達を可能にし、企業の持続的な競争優位に繋がる。実際にTCFDへの賛同・情報開示を行う企業へのアンケートでは、情報開示が、リスクと機会やそれに対する戦略への理解向上とともに、金融機関等や顧客との関係性向上に役立ったと回答する企業が増加している(図表8)。(図表7)TCFDにおける気候関連リスク・機会・財務的影響物理的リスク・TCFD提言は、気候変動に関するあらゆる政府の規制が、企業の海外逃避等に帰結する恐れがある中で、あくまでも国際的な協調をもって、自主的な裁量で情報開示を推奨したことに意義がある。低炭素経済に向けた取組みについては、費用をかけてまで情報開示を行うことに便益を感じない企業も存在するが、日本においては、社会的要請が強く、気候変動に要する資金調達が必要な業種・大企業が情報開示を行い(図表9)、それを評価した投資家が投融資を行うという形が生まれており(図表10)、TCFD提言の目的は一定程度達成されていると考えられる。・企業が目指すべきゴールは、情報開示そのものではなく、情報開示を通じて投資家からの理解を得て、必要な資金を調達し、低炭素経済に資する技術やノウハウを実装することにある。気候変動に関するリスクや機会が複雑化する中において、今後、日本企業が、目指すべきゴールを意識した質の高い情報開示を行っていくことが期待される。(図表9)環境に関する情報開示企業割合一般の方を対象として情報を開示している(出典)WorldMeteorologicalOrganization“WMOATLASOFMORTALITYANDECONOMICLOSSESFROMWEATHER,CLIMATEANDWATEREXTREMES(1970-2019)”、世界経済フォーラム「第17回グローバルリスク報告書2022年版」、TCFD「気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言」、TCFDコンソーシアム「TCFD開示・活用に関するアンケート調査」、CDP「気候変動レポート2021:日本版」、環境省「環境にやさしい企業行動調査」「グリーンファイナンスポータル」政策及び法規制•GHG排出の価格付け進行 •GHG排出量の報告義務の強化 •既存製品/サービスに対する義務化/規制化 •訴訟の増加技術•既存製品/サービスの低炭素オプションへの置換 •新規技術への投資の失敗 •低炭素技術への移行の選好コスト市場•消費者の行動の変化 •マーケットシグナルの不確実性 •原材料コストの高騰評判•消費者の好みの変化 •当該セクターへの避難 •ステークホルダーの不安増大、またはマイナスのフィードバック47建設業製造業電気・ガス・熱供給・水道業情報通信業運輸業、郵便業卸売業、小売業金融業、保険業不動産業、物品賃貸業学術研究、専門・技術サービス業宿泊業、飲食サービス業生活関連サービス業、娯楽業13サービス業20その他0(%)37434033418268収入支出損益計算書20(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。リスク機会戦略的計画リスク管理財務的インパクトキャッシュ・フロー計算書業種別14408060特定の取引先、金融機関等一部を対象として情報を開示している100資源の効率•効率的な輸送手段の利用 •より効率的な生産・流通プロセス•再生利用(リサイクリング)の利用 •高効率ビルへの移行エネルギー源•低炭素排出のエネルギー源の利用 •新技術の利用 •支援政策のインセンティブの利用 •高効率ビルへの移行製品及びサービス•低炭素商品・サービスの開発、拡大 •気候への適応と保険によるリスクへの対応 •R&Dとイノベーションを通じた新製品・サービスの開発 •ビジネス活動を多様化させる能力 •消費者の好みの変化市場•新たな市場へのアクセス •公共セクターのインセンティブの利用 •保険の補償範囲が必要となる新しい資産や場所へのアクセスレジリエンス•再生可能エネルギープログラムへの参加、省エネ対策の採用 •資源の代替/多様化396870242656483650531478677998貸借対照表資産 負債資本 資金調達売上規模別409350億円未満50億円以上100億円未満100億円以上500億円未満500億円以上1,000億円未満1,000億円以上5,000億円未満5,000億円以上1兆円未満1兆円以上10852511645111769199無回答0(%)27207360100情報の開示はしていない顧客との関係向上(新規顧客獲得、認知度向上、差別化等)投資家を含む金融機関等との関係向上(対話増加、評価向上、理解促進、資金調達等)自社戦略の変更・深耕(ビジネス再構築、リスク管理)自社の気候関連リスクと機会についての社内の理解深耕38182020(n=176)2021(n=211)(兆円)2.0発行総額発行件数(右軸)1.51.00.580201415160(%)20406080(件)12010080604020171819202117.630.351.162.636.951.265.975.8特になし6.84.7その他10.22.8ファイナンス 2022 Jul. 35(図表8)TCFDへの賛同・情報開示で得られたメリット(金融機関・非金融機関計)(図表10)国内企業等による グリーンボンドの発行実績コラム 経済トレンド 97気候関連の情報開示が求められる背景企業における気候変動への向き合い方

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