ファイナンス 2022年7月号 No.680
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数用採6スイス6イタリアドイツ英国フランス米国日本台湾韓国カナダフランスオーストラリアアメリカイギリス日本1,000(図表1)世界の気象災害による経済損失(10億ドル)1,5000・地球温暖化の進行に伴う海面上昇や異常気象等の自然災害は、世界規模で経済損失を生み出している(図表1)。今後も経済損失の増加が懸念される中、10年間に重大な悪影響を及ぼすグローバルリスクをみても環境問題が上位を独占しており(図表2)、こうした背景から、国際機関や各国で気候変動対策に関する様々な取組みが加速している。・その一つとして挙げられるのが、気候関連財務情報開示タスクフォース(以下TCFD)である。TCFDは、企業等が気候変動リスク及び機会についての情報を正しく開示しないことによって、金融機関等が企業の価値を適切に評価することができず、結果的に金融システムの安定性が損なわれる脅威に対応するために、G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)によって設立された。・2017年6月には、気候関連のリスクと機会に関わる「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」を自主的に情報開示をすべきとする提言がなされた(図表3)。・TCFD提言は、すべての企業に情報開示を推奨しているが、産業・企業間で気候変動に対する事業への影響や開示可能な情報には差があるため、あくまでも任意の情報開示のための枠組みとされている。また、企業等がTCFD提言に賛同し、段階的に様々な企業や組織に広がることで、包括的な理解が形成されることが期待されている(図表4)。・こうした中で、気候変動に関する財務情報開示を積極的に進めていくという趣旨に賛同する機関数は、日本が最多であり(図表5)、その開示内容においても、CDP(注)評価で最も高評価であるAスコアを獲得した企業数が最多となっているなど(図表6)、日本企業が時間と労力を投入して量・質ともにTCFD提言の推進の一翼を担っていることがうかがえる。・足元では、各国で企業に気候関連財務情報の開示を求める動きがみられ、日本では2021年6月の「コーポレートガバナンス・コード及び投資家と企業の対話ガイドライン」の改定により、TCFDの提言に基づいて開示すべきであることが記載され、2022年よりプライム市場上場企業1,841社に開示要請がされている。情報開示を通じて、投資家の投資判断に必要な情報を適切にわかりやすく提供するとともに、企業と投資家との間の建設的な対話を通じて、企業の中長期成長を促すことが期待されている。(注) 気候変動に関する質問書を企業等に送付し、それに対する回答からスコアを付与して公表するNGO。2018年よりTCFDに準拠する形で質問書を(図表4)TCFD提言実施に向けた道筋2022年金融システムにおける炭素関連資産の集中、及び金融システムの気候関連リスクエクスポージャーに関する幅広い理解より完全で、一貫性があり、投資家にとって比較可能性のある情報、透明性の向上、気候関連リスク及び機会の適正な価格付け採用の拡大、開示情報の更なる進化(指標及びシナリオ分析)、情報利用の成熟化2017年6月TCFD最終報告書の公表5年のタイムフレーム852.3500289.3175.41970-7980-8990-99改訂し送付している。情報利用者、作成者の双方にとって気候関連問題が事業及び投資における一般的な考察事項として認識財務報告書への開示を開始他のフレームワークの下で報告を行っている企業がTCFD提言に基づく開示を実施。それ以外の企業は気候関連問題が自社事業に及ぼす影響を考察1381.0942.02000-0910-19(企業・機関数)1,0008006004002000順位12345678910地政学上の対立(図表2)今後10年で最も深刻な グローバルリスク(2022年版)カテゴリー(図表5)各国のTCFD賛同機関数 気候変動への適応(あるいは対応)の失敗異常気象生物多様性の喪失や生態系の崩壊社会的結束の侵食雇用および生活破綻(生活苦)の危機感染症の広がり人為的な環境被害や災害天然資源危機主経済国の累積債務危機その他:76企業:745リスク環境環境環境社会社会社会環境環境経済地政学(注)Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出Scope3:Scope1,2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)4つの提言取締役会による監視体制経営者の役割リスクと機会ビジネス・戦略・財務計画への影響シナリオに基づく戦略のレジリエンスの説明リスクを評価・識別するフ゜ロセスリスクを管理するフ゜ロセス上記フ゜ロセスがどのように総合的リスク管理に統合されているかリスクと機会の評価にも用いる指標Scope1,2,あてはまる場合は3の排出量(注)リスクと機会の管理に用いる目標と実績ガバナンス戦略リスク管理指標と目標(企業数)6050403020100563022推奨される情報開示内容141210スペイン(注)気象災害とは、干ばつ・異常気温・洪水・土砂崩れ・暴風雨・山火事を指す。TCFDの推進状況(2022年4月25時点)(図表3)TCFD提言と推奨される情報開示(図表6)CDP 気候変動Aリストに ある企業数(上位8か国)大臣官房総合政策課 調査員 大井 克彰/髙根 孝次本稿では、企業による気候関連の情報開示の取組みとその意義について考察する。コラム 経済トレンド97 34 ファイナンス 2022 Jul.気候変動対策とTCFD企業による気候関連の情報開示について

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