ファイナンス 2022年7月号 No.680
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間99%から99.5%などとより保守的にすることと本質的な違いはありません。4.4  清算参加者がデフォルトした場合の厳*29) ちなみに、期待ショートフォールを利用するうえで、正規分布を想定しないことが前提です。正規分布を想定するのであれば、従来のVaRを信頼区*30) ちなみに、JSCCではExponential Weighting Moving Average法と呼ばれる方法が用いられています。これは「金利変動の動向を迅速に反映させるため、最近の金利変動の動向を基準として過去のマーケットデータの変動シナリオを修正する手法」と説明されていますが、直観的には現時点に近いデータに対して重いウェイトを置いて期待ショートフォールを計算しているということを意味しています。*31) JSCCによれば、「金利スワップ取引の年限の区分(テナーバケット)ごとに、ポジションの感応度(PV01)に対して清算参加者へのマーケットサーベイに基づいて設定されるアスク・ビッド幅を乗じて算定します」としています。流動性チャージの考え方については富安(2014)などを参照してください。(注) 保有期間が5日とは5日間で発生するリスク量を計算していること、参照期間が1250日とは過去1250日間の(出所)JSCCウェブサイトより抜粋データを参照してリスク量を計算していることを意味しています。ファイナンス 2022 Jul. 29図表9 期待ショートフォールに基づいた金利スワップにおける当初証拠金算出のイメージ店頭(OTC)デリバティブ規制入門 格な取り決めした1%程度のシナリオであれば、それ以上に悪いシナリオが十分起こりえるということが明らかになったわけです。しかしながら、VaRでは1%番目以降の損失についての情報を得ることはできません。そこで、VaRを改善するリスク指標として登場したものが期待ショートフォールです(期待ショートフォールついては、リスク管理の実務だけでなく、バーゼル規制でも用いられています)。期待ショートフォールのイメージを掴むために、ここでは具体的な計算のイメージを説明します。図表9はJSCCのウェブサイトにおいて期待ショートフォールについて説明している図を抜粋したものです。期待ショートフォールでは、悪いシナリオの1%以下に起こるイベントの中で平均値をとるという考え方をとります。すなわち、先ほどの例であれば過去のスワップレートの変化を用いて損失が大きかったものから並び替えをするのですが、「過去の経験からみて1%番目に悪かったシナリオ」ではなくて、「悪いシナリオに相当する1%分の中で平均的に起こる損失」を計算するということです。具体的には、過去5年間のデータから悪いシナリオ1%のデータをとってきて、そこから平均値を計算するということです。ハル(2016)では、「VaRが『どの程度事態が悪化しうるのか?』を問題としているのに対し、期待ショートフォールは「もし事態が悪化した場合、予測されうる損失はどれくらいか?」を問題としている。期待ショートフォールは、N日間においてVaR損失よりも大きい損失が発生した場合の条件付き期待損失である」(p.772)としています*29。JSCCのウェブサイトでは、金利スワップの当初証拠金について「損失額の上位1%の平均値をとる証拠金とします」とありますが、ここまで読んだ読者はこれが期待ショートフォールであることがわかるはずです*30。なお、当初証拠金についてはさらに「流動性チャージ」*31と呼ばれるものを追加的に合算して計算されます。次回の論文で詳細に説明しますが、中央清算機関でクリアリングされないOTCデリバティブについては、証拠金規制で10日間における99%VaRが求められています。前述のとおり、JSCCでクリアリングされるリスク量は5日間の期待ショートフォールであるため、

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