ファイナンス 2022年7月号 No.680
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*27) バーゼル規制においても、例えば「トレーディング勘定の抜本的見直し(FRTB)」などVaRでなく、期待ショートフォールを使う流れが見られています。*28) 吉藤(2020)では「リスク指標として広く使われているVaRについては、以前より『リーマンショックのようなテールリスクをとらえられない』『劣加法性を満たさない』等の欠点が指摘されていた」(p.133)と指摘しています。もっとも、過去のデータに立脚したうえで、分布の端の1%の平均値をとることでどれくらいファットテール事象を捉えられるかについて疑問を有する実務家もいますし、また、その数学的な良さも実務的にはさほど大きな問題にならないとみる実務家もいます。実際には金融危機時にVaRという指標の問題点は明らかになったため、何らかの異なるリスク指標が求められた側面もあります。期待ショートフォールそのものは金融機関のリスク管理に幅広く用いられていますが、その有益性は今後検証されていくものだと感じています。AC1BAB111C1D1Dについては次回の論文で説明します。(出所)Menkveld and Vuillemey (2021)より筆者作成CCP図表8 カウンターパーティ・リスクに対する保険*25) ここではCVAやDVA、FVAという観点でカンターパーティ・リスクがないと記載しております。この場合、別途MVAの問題が出てきますが、MVA*26) 正確には、変動証拠金は、「16:00時点の各金利スワップ清算参加者のポジションについて、15:02時点のイールド・カーブを使用して算出したNPVと前営業日の15:02時点のイールド・カーブを使用して算出したNPVとの変動をカバーする金額」、日中変動金は「12:00時点の各金利スワップ清算参加者のポジションについて、11:02時点のイールド・カーブを使用して再計算した当初証拠金相当額に、同イールド・カーブで再計算した変動証拠金相当額(前営業日の変動証拠金算出時点から当該日中証拠金の算出時点までのNPVの変動額)を加減した金額」です。https://www.jpx.co.jp/jscc/seisan/irs/margin/shokokin.html 28 ファイナンス 2022 Jul.4.3 JSCCにおける金利スワップの事例ですが、危機時にはその当初証拠金では足らない可能性があります。そのため、仮に危機が発生した場合、どのような損失になるかを算出したうえで、その損失がカバーできるような資金の拠出を清算基金に求めています。JSCCについては、ストレス時の損失を算出したうえで、当初証拠金を引いた「担保超過リスク額」を計算します。そのうえで、上位2社の担保超過リスク額を按分するような形で各金融機関の拠出額を算定しています。なお、実務的には中央清算機関でOTCデリバティブを清算した場合、カウンターパーティ・リスクはないと評価されます(現行のバーゼル規制についてもそのように取り扱われていますが、詳細はBOX 1を参照してください)*25。その背景には前述のような中央清算機関においてカウンターパーティ・リスクに対する措置が取られているからです。ただし、バーゼル規制では中央清算機関向けのエクスポージャーに対する資本賦課が課されている点に注意が必要です(この点もBOX 1を参照してください)。ここから実際に当初証拠金と変動証拠金のイメージを掴むため、最も国内で用いられており、JSCCでクリアリングされている円金利スワップの事例を取り上げます。まず、金融機関がJSCCに差し出す証拠金は、これまで説明した(1)当初証拠金、(2)変動証拠金に加え、(3)日中証拠金があります。(1)については後述しますが、変動証拠金と日中証拠金の違いは、前者は16時時点のポジションに基づく証拠金(15時時点でのイールドカーブで算出)である一方、後者は12時時点(11時時点でのイールドカーブで算出)での証拠金という違いです*26。つまり、JSCCでは1日2回、変動証拠金が求められていることになります。なお、前述のとおり、上位2社の超過リスク額を按分するような形で、清算基金への拠出も求められています。当初証拠金:5日間の期待ショートフォールで算出OTCデリバティブ規制において特に重要なものは当初証拠金ですので、その計算方法について確認します。中央清算機関に対する当初証拠金の算出について注意すべき点は、リスク管理で広く用いられているVaRでなく、期待ショートフォールというリスク指標が用いられている点です*27。VaRとは、服部(2021)で説明した通り、過去のデータに立脚してリスク量を算出する方法です。仮に、5日間の99%VaRを計算したい場合、例えば、過去5年間のデータをとってきて、それぞれの日において過去5日間の時価の変化(スワップレートの変化)を計算します。そのうえで、損失が大きかったものから並べ替えをして、ちょうど1%番目に悪かったシナリオを金利リスク量として採用するということです。これは「過去の経験からみて1%番目に悪かったシナリオ」(これをパーセンタイル値といいます)をリスク量として採用するという発想です。もっとも、金融危機において、VaRは危機時に起こる稀ないイベント、いわゆるファットテール・イベントを上手く捉えられないという問題が指摘されました*28。すなわち、せいぜい数年前からのデータに立脚

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