ファイナンス 2022年7月号 No.680
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21A1CB2DA1CB1D *22) ZTIBORについては服部(2022)を参照してください。*23) ここでの記述についてはMenkveld and Vuillemey(2021)に基づいています。*24) 実務的には中央清算機関でクリアリングする取引の場合、CVAやDVAなどはないと想定します。(出所)Menkveld and Vuillemey (2021)より筆者作成CCPファイナンス 2022 Jul. 27図表7 ネッティング店頭(OTC)デリバティブ規制入門4.2 中央清算機関が果たす役割マルチラテラル・ネッティングおよび証拠金の効率的な配分ユーロ円TIBOR(ZTIBOR)*22とするスワップのクリアリングを開始するなど、中央清算できる商品を拡大しています。クリアリングされているOTCデリバティブは中央清算機関によって異なります。例えば、スワップションはJSCCではクリアリングされていませんが、CMEではドル金利のスワップションについてクリアリングがなされています。前述のとおり、どのような商品をクリアリングできるかは標準化や流動性等に依存します。特に流動性については各国で各種デリバティブがどの程度活発に取引されているかにも依存するといえます。実際、先物を見ても各国で取引されている範囲や流動性は大きく異なります(これまで筆者の論文で説明してきましたが、金利先物一つとっても、我が国では現在ほとんど取引されていませんが、米国ではユーロドル先物やフェデラル・ファンド(FF)金利先物、SOFR先物など複数の金利先物が活発に取引されています)。前節では具体的に中央清算機関について説明しましたが、ここでは中央清算機関が果たす役割について少し丁寧に議論をしていきます*23。中央清算機関が有する重要な役割の一つは、マルチラテラル・ネッティングです。図表7がそのイメージですが、AとBがデリバティブ契約を行ったとして、Bがそのヘッジのために、Dとデリバティブ契約を行い、さらにCとDが順々にヘッジしていたとします。図表7における矢印に数値が記載されていますが、これは契約数を意味しています。この場合、図表7の左側をみてもらうと、実質的には、AとDだけの契約になるのですが、もし中央清算機関を通じて取引をしていないとAからDの4つの金融機関で複雑な取引関係が生まれてしまいます。一方、中央清算機関を通じた取引にすれば、中央清算機関が複雑な取引を相殺して、図表7の右側のようにAとDの取引に集約することができます。マルチラテラル・ネッティングの重要な効果として、証拠金の効率的な配分も挙げられます。もし図表7の左側のように多くの取引を相殺しないままであれば、各金融機関ごとに証拠金を出し合う必要性が生まれますから、証拠金がより一層必要になるということが起こりえます。一方、複雑な取引を中央清算機関がネッティングすることにより取引の集約化がなされて、効率的な証拠金の配分が可能になります。保険機能と清算基金(デフォルト・ファンド)中央清算機関はカウンターパーティ・リスクについて保険会社のような機能も果たしています。図表8に記載しているとおり、AとB、さらに、CとDという形で相対で取引をすると、もし仮に相手がデフォルトした場合、その損失をカウンターパーティーが被ることになります。しかし、図表8の右側のような形で中央清算機関を通じた取引にすることにより、取引相手は中央清算機関になりますから、カウンターパーティ・リスクを減少させることができます*24。また、中央清算機関からみれば、多くの金融機関からリスクを集めることでリスクをプーリングするとともに分散化することが可能になります。もちろん、金融機関がデフォルトすることにより、中央清算機関に損失が発生し、中央清算機関が破綻する可能性も考えられます。そこでそのようなリスクに備えて中央清算機関は清算基金(デフォルト・ファンド)を有しています。金融機関は中央清算機関に当初証拠金を差し入れており、この証拠金を用いることができるの

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