ファイナンス 2022年7月号 No.680
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4中央清算機関の役割4.1 日本証券クリアリング機構(JSCC)ここから中央清算機関について焦点を当てて説明していきますが、そもそも中央清算機関についてあまりなじみのない読者も少なくないと思います。そこでまずは実際の中央清算機関について紹介します。我が国*16) プレーンバニラのデリバティブとは、デリバティブ取引において「標準的な取引を表すのに使われる用語」(ハル 2016、p.1308)です。逆に非標準*17) LIBORの恒久停止に伴い2021年12月に電子取引基盤規制の対象も一部改正されています。詳細は下記等を参照してください。 *18) ここでの記述は望月・大井・藤丸(2020)に基づいています。詳細を知りたい読者は同論文をご参照ください。 *19) 例えばLCHでクリアリングされる円金利スワップ・レートと、JSCCでクリアリングされる円金利スワップ・レートがずれることがあり、JSCC-LCHスプレッドなどと呼ばれます。本来ならば同じ円金利スワップレートであるため同じプライスが付されるべきであり、一物一価が成立していないように思われますが、規制などで説明される傾向にあります。*20) 現在、日本で外国清算機関免許を取っている外国清算機関(CMEやLCH等)は、本邦金融機関に対して円金利スワップの清算サービスを提供していません。本邦大手金融機関の中には、日本本社はJSCCのメンバーになっている一方、欧州に拠点を有する海外現地法人はLCHのメンバーになっている場合もあるため、日本本社における取引はJSCCを通して、海外現地法人における取引はLCHを通してクリアリングされるという側面もあります。*21) アーマー等(2020)では「清算機関同士の競争は、時間の経過とともに、本来はカウンターパーティの信用リスクやその他のリスクを軽減するために設計された、証拠金や担保の質、損失分担、その他のメカニズムに対して有害な『底辺に向けた競争(race to the bottom)』が始まる可能性がある」(p.270)と指摘しています。2000的なデリバティブをエキゾティック・デリバティブということもあります。https://www.fsa.go.jp/news/r3/shouken/20211105/20211105-3.pdfhttps://www.fsa.go.jp/frtc/kikou/2020/20200622.pdf金融危機バーゼル1バーゼル22009年ピッツバーグ・サミット2005バーゼル3清算集中義務取引情報蓄積機関制度2011年カンヌ・サミット20102015電子取引基盤制度証拠金規制2020時間図表6 OTCデリバティブ規制の導入のイメージ 26 ファイナンス 2022 Jul.た。例えば、OTC市場においても日本国債であれば日本相互証券(いわゆるBB)が提供する板を見ることができます。一方、OTCデリバティブでは、トレーダーがマイクを通じてプライスを出すという商慣行が今でもよく用いられており、口頭でやりとりするのであれば価格の透明性が低いとみることもできます。そこでピッツバーグ・サミットでは、一定のOTCデリバティブについては電子取引基盤の使用を義務付ける必要性が指摘されました。我が国では、2015年9月から電子取引基盤使用義務も開始されており、具体的には想定元本の平均残高が6兆円以上の金商業者等の間における一般的な(プレーンバニラ型*16の)円金利スワップ取引(期間は5、7、10年物に限る)については、金融庁に登録された金商業者が提供する電子取引基盤の使用が義務化*17されています*18。における代表的な中央清算機関は、日本証券クリアリング機構(Japan Securities Clearing Corporation, JSCC)になります。JSCCとは2002年に国内5証券取引所及び日本証券業協会の出資により設立し、その後、日本国債清算機関や日本商品清算機構の合併を経て現在に至っています。我が国の中央清算機関として、JSCC以外にも、ほふりクリアリング(JASDEC DVP Clearing Corporation, JDCC)、東京金融取引所(Tokyo Financial Exchange, TFX)が存在します。国際的にも、中央清算機関は複数存在します。特に有名な機関は、米国におけるCMEと欧州におけるLCH(London Clearing House)です。円金利デリバティブのクリアリングのサービスはCMEやLCHも提供しています*19*20。その意味で、中央清算機関も、取引所と同じように国際競争にさらされているとみることができます*21。現在、JSCCがクリアリングしている円建てのOTCデリバティブは、金利スワップとCDS(インデックスCDSとシングルネームCDS)です。歴史的には、JSCCは2011年7月よりCDS、2012年10月より金利スワップ(IRS)取引の清算業務を開始しました。金利スワップについては、2013年2月に変動金利を

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