ファイナンス 2022年7月号 No.680
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*9) 清算機関向け監督指針III−3−6では、清算機関に対して、参加者担保と顧客担保の分別が求められています。ここの記載は、「金融機関の目から見た場合には、自ら取引相手から証拠金を徴求して分別管理するよりも、清算機関を利用したほうが実務上の負担が軽い」という趣旨の記載をしている点に注意してください。なお、下記の「金融商品取引清算機関等に関する内閣府令」およびJSCC「金利スワップ取引清算業務に関する業務方法書」も参照してください。「金融商品取引清算機関等に関する内閣府令」第十八条 法第百五十六条の十一に規定する内閣府令で定めるものは、金銭及び金融商品取引清算機関が業務方法書において定める有価証券であって、当該金融商品取引清算機関が、業務方法書の定めるところにより、清算預託金として他の財産と分別して管理するものとする。JSCC「金利スワップ取引清算業務に関する業務方法書」第86条 当社が、清算参加者の当社に対する債務等を担保する目的で清算参加者から預託を受ける金利スワップ清算基金、当初証拠金、第三階層特別清算料担保金及び破綻時証拠金は、金融商品取引法第156条の11に規定する清算預託金とする。第87条 当社は、前条の清算預託金の全額を、清算預託金を預託した清算参加者又は清算委託者のために、当社が定める方法により分別して管理するものとする。*10) 筆者が記載した「金利スワップ入門」で説明したとおり、金利スワップは債券のように考えることができます。詳細は服部(2020)を読んでもらいたいのですが、読者が固定受けのポジションの場合、10年国債のロングと似たリスクをとっていることになります。例えば、10年金利スワップのデュレーションを(単純化して)年限で近似して10とすると、本稿の事例では、100円に対して10×0.5=50銭の評価益を計上していることになります。*11) 金利スワップを受けた場合、固定金利の現在価値を受け取り、変動金利の現在価値を払いますが、これらは等価であるため、金利スワップを結んだ時点における現在価値(Present Value)は理論的にはゼロになります。実際、スワップを締結した時点では資金の受払はありませんし、ファイナンス理論でもこのような想定をします。詳細は服部(2020)を参照してください。 24 ファイナンス 2022 Jul.3.4 当初証拠金と変動証拠金変動証拠金央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制」の最終枠組みをベースに、2016年から段階的に導入がなされています。詳細は次回の論文で説明しますが、証拠金規制では、例えば分別管理*9など、金融機関自身が厳格に証拠金を管理することが求められています(中央清算機関でクリアリングした場合は中央清算機関が証拠金の分別管理等を実施しています)。基本的には金融機関にとって清算集中した方が、コストが低くなるように規制が定められており、金融機関は中央清算機関でクリアリングされるデリバティブを取引するようインセンティブが与えられていると解釈することができます。ここまで金融危機の再発を防ぐために証拠金の重要性についてたびたび指摘しましたが、ここから証拠金の役割についてより厳密に考えていきます。例えば、仮に筆者と読者の間で10年の金利スワップを結んだとして、読者が1%で固定受け、変動払いのポジションであったとします。これは読者は毎年筆者から1%の固定金利を受け取る一方で、(TONAなどの)変動金利を支払うポジションといえます。その後、金利が低下して、市場で取引される金利スワップが0.5%になったとします。この場合、読者のポジションは市場に比べて(0.5%ではなく1%の固定金利をもらえるという意味で)有利なポジションといえます。そのため、読者は勝ちポジションといえますが*10、仮に筆者が倒産した場合、読者のこの勝ちポジションは失われるという意味でカウンターパーティ・リスクがある状況です。もっとも、筆者と読者で上述のように時価が動いたら、その都度証拠金を受け渡しするようにしておけばこのリスクをヘッジできるといえます。このように時価が動くたびに受け渡しをする証拠金を「変動証拠金(Variation Margin)」といいます。当初証拠金このように時価が動くごとに証拠金を支払えば十分に思われるかもしれませんが、実際にカウンターパーティが倒産した場合、その相手との契約のヘッジ等を迅速にできるとは限りません。例えば、先ほどの例でいえば、筆者と読者が金利スワップの契約を結んでおり、筆者が仮に倒産した場合、金利スワップの時価はそれ以降も刻々と動いていきます。特に金融危機のような場合は、往々にして自分にとって損失が拡大するようにマーケットが動く可能性があります。このように倒産してから実際にポジションがクローズアウトするまでの潜在的なリスク量をポテンシャル・フューチャー・エクスポージャーといいますが、このための証拠金も必要となります。このリスクのための証拠金を「当初証拠金(Initial Margin)」といい、取引開始のタイミングでこの証拠金を渡すことになります。図表5は当初証拠金と変動証拠金の関係を示しています。取引時点では時価はゼロ*11ですが、その後、マーケットの変化に伴い時価が変化します。この時価の変化に伴うリスクは変動証拠金を受け渡すことでカバーされます。その一方、仮に相手がデフォルトした場合、クローズアウトするまで一定の時間がかかり、さらに損失が膨らむ可能性がありますが、当初証拠金はこのリスクをカバーします。

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