ファイナンス 2022年7月号 No.680
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3OTCデリバティブ規制について3.1 清算集中義務B D A C B D A C (CCP) B D A C 証拠金■証拠金■*5) 金商法156条の62。*6) 2010年に金融商品取引法が改正され、2012年から規制が適用されています。*7) 厳密にいえば、CDSと金利スワップで異なる取り扱いがなされており、3,000億円以上の規定は金利スワップに設けられています。対象除外や経過措置の詳細については金融庁ウェブサイトや富安(2014)などを参照してください。(出所)金融庁資料より抜粋②中央清算機関を利用しない店頭デリバティブ取引については、取引参加者が証拠金(担保)を授受(証拠金規制)。■金融危機時のデリバティブ 市場の問題点 市場の誰かが破綻した場合、取引相手を通じてその影響が伝播する可能性(■■■■■)■中央清算機関の利用が促進され影響の波及を遮断■市場の誰かが破綻しても、取引相手は証拠金を受領しているため、取引相手を通じた影響の伝播は回避■①清算集中義務■2012年11月より施行 ②証拠金規制■■2016年9月より施行予定 (日本の規制第二次案は2015年12月に公表) 中央清算機関 ■1.清算集中義務と証拠金規制■G20の要請による規制改革 ①標準化された店頭デリバティブ取引については、中央清算機関を利用(清算集中義務)。■図表2 OTCデリバティブ規制における清算集中義務と証拠金規制のイメージ店頭デリバティブ規制改革①■ 22 ファイナンス 2022 Jul.す。そのため、そのような勝ち負けについて差し引きをすることで効率化が図れます。このような事前準備を「清算(クリアリング)」といいます。なお、最終的にお金の受け渡しをして、債権・債務を解消することを「決済(セトルメント)」といいます。中央清算機関の役割については後述しますが、このようなクリアリングを行うことにより、多くのOTCデリバティブの取引相手を中央清算機関に集約することが可能になり、カウンターパーティ・リスクの削減に寄与します。富安(2014)でも中央清算機関について「両当事者に入って決済を行い、カウンターパーティ・リスクを削減する機関」(p.365)と説明しています。前述のとおり、カウンターパーティ・リスクを防ぐために、標準的なOTCデリバティブ取引を中央清算機関で取引させる考え方を説明しましたが、ここからOTCデリバティブ規制の概要について説明していきます。図表2は金融庁が作成した資料の抜粋になりますが、この図の左側のように、例えば、金融機関Aが金融機関Bや金融機関Cとデリバティブ契約を結んでいた場合、金融機関Aがデフォルトすることは金融機関Bや金融機関Cに影響を与え、さらにそれが他の金融機関に影響を与える可能性があります。これはOTCデリバティブ取引においてカウンターパーティ・リスクが看過できない際に発生しうる伝播効果です。そこで図表2の右上のように中央清算機関を仲介して取引がなされるようになれば、取引相手は中央清算機関になり、仮に金融機関Aが倒産したとしても、金融機関Bや金融機関Cへの伝播を防ぐことができます。このように中央清算機関で清算が可能なOTCデリバティブ取引について、中央清算機関の利用を義務付けることを「清算集中義務」といいます。清算集中義務については2009年のピッツバーグ・サミットでその必要性が指摘され、我が国では、2012年より、一定の金融商品取引業者に対し、金融商品取引法*5によって義務付けられています*6。このように法的に標準的なOTCデリバティブの清算集中を義務付けることで、金融危機時のような混乱の再発を防止しているわけです。清算集中義務の対象は、基本的には、前年度のOTCデリバティブ取引の想定元本合計額が3,000億円以上の金融商品取引業者同士の取引です*7。規模の大きな金融機関同士の取引が対象となっており、例えば金融機関と事業会社が金利スワップを結んだ場合、その対象になっていない点が特徴です。このように比較的大きな金融機関を対象としている背景には、金融危機で経験したような大手金融機関の破綻が伝播していくシステミック・リスクを防ぐことにあると解釈できます。清算集中が義務化されて以降、中央清算されるデリバティブの割合は増加しています。図表3は円金利のOTCデリバティブの中で最も流動性が高い円金利スワップ取引におけるクリアリングの比率を示していますが、円金利スワップについては、8割を超える取引が中央清算機関によってクリアリングされています。

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