ファイナンス 2022年7月号 No.680
25/90

*3) メラメド(2010)は「業績、歴史、財力を備えた錚々たる金融機関でさえ、揺らいだり倒れたりした前例のない世界規模の金融溶解のさなかにあって、CMEは完全無欠に機能した」(p.15)と指摘しています。*4) ここでの説明は下記の日銀のウェブサイト等を参照しています。 https://www.boj.or.jp/paym/outline/wkkey6.htm/図表1 「中央清算なし」と「中央清算あり」でみたOTCデリバティブのイメージ<中央清算なし>筆者読者筆者<中央清算あり>中央清算機関読者ファイナンス 2022 Jul. 21店頭(OTC)デリバティブ規制入門 2.3  金融危機により重要性が高まった中央清算機関年後、その金融機関がデフォルトした場合、この契約は履行されなくなります。このようなリスクをカウンターパーティ・リスクといいます。金融危機以前は、金融機関が倒産することが稀であったことから、カウンターパーティ・リスクは認識されていませんでした。筆者が記載した「金利指標改革入門」(服部, 2021a)では、LIBORは大手金融機関の調達金利でありながら、金融危機以前は金融機関が倒産することはほぼあり得ないと考えられていたことから、実務的にはリスク・フリー・レートとして取り扱われていたという話をしました。もっとも、金融危機時にリーマン・ブラザーズが倒産することで、OTCデリバティブにおけるカウンターパーティ・リスクが強く認識されるようになりました。OTC取引において、特に問題である点は、金融機関が倒産することでその影響が他の金融機関に伝播していくことです。実際、多くのOTCデリバティブの契約をしていたリーマン・ブラザーズがデフォルトすることで、その取引相手にも多大な影響を与えました。そのため、金融危機の再発を防ぐという意味では、カウンターパーティ・リスクを軽減するための規制が必要といえます。前述のとおり、デリバティブ取引には上場デリバティブとOTCデリバティブがあるのですが、重要な点は、金融危機時においても取引所で取引されている上場デリバティブは問題なく機能したことです。例えば国債先物の場合、大阪取引所を通じて売買をしますから、取引の相手は個別の金融機関ではなく、取引所になります。取引所取引は、適時証拠金を求めることにより、仮に相手が取引を履行できなくなったとしても損失がカウンターパーティに及ばない措置が取られています。いわば、取引所で取引される上場デリバティブでは、仮に相手がデフォルトしたとしてもうまく機能するような仕組みを有していたといえます。シカゴ・マーカンタイル取引所(Chicago Mercantile Exchange, CME)のメラメド氏は自身の著書で、金融危機時に多くの金融機関が破綻の危機にさらされる中、取引所は安定的に機能したと誇っています*3。そこで、OTCデリバティブについても、取引所のような機関を通じて取引を行い、適切な証拠金の受渡を行えば、仮に金融機関が破綻したとしても、その伝播を防ぐことが可能であるように思われます。例えば、金利スワップを行う場合、図表1の左図のような形で、筆者と読者で直接取引するのではなく、右図のような形で、筆者と読者の間に取引所が入るということです。政府としては出来る限り、OTCデリバティブについて取引所のような中央機関を通じて取引をさせるとともに適切な証拠金の授受を求めることで2008年に起こった金融危機の再発を防ぐことが可能になります。ここまでわかりやすさを重視するため、取引所や中央機関という表現を使いましたが、このような機能を果たす機関を中央清算機関(Central Counterparty, CCP)といいます。中央清算機関は、清算(クリアリング)を取引所のような中央機関で行うわけですが、そもそも清算自体、多くの読者にとっておそらく馴染みの薄い概念と思われます。我々がモノを買う場合は、モノを受け取り、お金を渡すことで決済が終了します*4。しかし、金融機関では、決済を行う前に事前準備を行います。例えば金融機関同士の取引の場合、同じ相手と無数に取引を行いますから、その取引について一つ一つ資金の受け渡しをするのではなく、例えば反対取引であればネッティングすることが可能です。特にデリバティブ取引で様々な取引をすると、ある金融機関にとって勝ちポジション(ある取引では評価益が発生しているポジション)がある一方、別の取引では負けポジションになっていることがありま

元のページ  ../index.html#25

このブックを見る