ファイナンス 2022年7月号 No.680
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2OTCデリバティブの概要と中央清算1はじめ本稿は店頭(OTC, Over The Counter)デリバティブ規制の概要を説明することを目的としています。金融危機時にはリーマン・ブラザーズが破綻したこと等を発端にOTCデリバティブ市場で混乱が起こりました。その反省から、OTCデリバティブ取引に関し様々な規制改革がなされました。具体的には、2009年のピッツバーグ・サミットや2011年のカンヌ・サミットを契機に、標準的なOTCデリバティブについては中央清算機関を通じて清算する義務が課されるとともに、中央清算されないOTCデリバティブについても証拠金の授受を求める方向性が示されました。*1*1) 本稿の作成にあたって、富安弘毅氏、仲田信平氏、藤原哉氏等、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。*2) 下記をご参照ください。 https://sites.google.com/site/hattori0819/ 20 ファイナンス 2022 Jul.2.1 OTCデリバティブとは機関の役割2.2 カウンターパーティ・リスクとはOTCデリバティブ規制は、金融機関の実務家にとっても比較的専門性の高い分野であり、相対的に日本語の文献が不足しています。そこで本稿では、コンパクトに金融危機以降に導入されたOTCデリバティブ規制の概要について解説します。今回の論文ではOTCデリバティブ規制の全体像や清算集中義務、中央清算機関の役割に焦点をあてます。次回の論文では、中央清算機関で清算されないOTCデリバティブ規制である証拠金規制について説明します。なお、筆者が記載してきた債券や国債の一連の入門シリーズは筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。服部(2021a)などでも丁寧に説明しましたが、OTC市場とは、証券会社等を通じて取引される相対市場を指します。本稿で取り上げるOTCデリバティブとは、デリバティブの中でも、OTC市場で取引されているデリバティブになります。例えば、日経225先物や国債先物の場合、OTC市場ではなく、取引所で取引されていますから、これはOTCデリバティブではなく、上場デリバティブになります。一方、例えば、金利スワップの場合、証券会社と相対で取引をすることから、金利スワップはOTCデリバティブの例になります。債券やデリバティブなど多くの金融商品はOTCで取引されていますが、OTC取引ではオーダーメイドの商品の組成が可能になるほか、上場に適しないデリバティブについても取引が可能になる等、様々なメリットを有しています。その一方、上場のデリバティブ(例えば国債先物など)は標準化や証拠金などを通じて取引所取引が可能になっており、高い流動性が実現しています。これまでOTCデリバティブについて筆者は様々な観点で取り上げてきましたが、本稿で焦点をあてる重要な特徴は、もし仮に取引相手が倒産した場合、その契約が履行されない(あるいは損失等を計上する)可能性があるという点です。取引所における取引では、なじみのない投資家同士で取引したとしてもきちんと履行するための仕組みがとられており、(詳細は後述しますが)もし仮に相手がデフォルトしたとしても安定した運営が可能になります。しかし、例えば、読者がOTCデリバティブ契約を金融機関と結び、仮に1東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1店頭(OTC)デリバティブ規制入門-清算集中義務と中央清算機関(CCP)について-

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