ファイナンス 2022年7月号 No.680
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5今後の展望DSSIは、パリクラブ国と非パリクラブ国間の公平な債務措置の実効性の確保や、民間債権者の関与の確保の点で、多くの教訓を提供した。また、DSSIは、あくまで一時的な支払猶予を行い、流動性を供給する方策に過ぎず、途上国の中期的な債務持続可能性の回復まで約束するものではない。このため、G20及びパリクラブは、DSSIで急場を凌いだ上で、低所得国が抱える債務問題の根本要因に切り込み、持続的な経済成長の実現を支援するための新たな協調の枠組みとして、2020年11月、「DSSI後の債務措置に係る共通枠組(Common Framework for Debt Treatments beyond the DSSI)」に合意し、これに基づき、個別国の債務救済の議論が現在行われている*16。特に、DSSIが終了した2022年は、低所得国の債務支払の負担(参考3参照)はコロナ禍以前の水準まで戻り、また、現下のエネルギー・食料価格高騰の影響が、非資源国を始めとして重くのしかかる中で、債務問題は一層深刻化している。こうした中、非パリクラブ国を含む公的な二国間債権者が、「共通枠組」の下で協調し、迅速に債務救済を実施すると共に、民間債権者による同等の貢献を確保していくことが、低所得国の経済再生の道筋を作る上で、極めて重要である。また、本稿では、低所得国に焦点を当てたが、それ以外の国でも同様の問題に直面*17しており、国際社会が一体となって、債務問題に対処し、危機を未然に防ぐための取り組みを進めることが期待される。 (単位:億ドル)*14) 例えばMoodyʼs“Potential credit implications of G20 debt relief initiative for private-sector creditors”(2020年4月24日)やS&P“COVID-19 and implications of temporary debt moratoriums for rated african sovereigns”(2020年4月29日)を参照。*15) Moodyʼsのレポート(パキスタン(2020年5月14日)、エチオピア(2020年5月7日))を参照。*16) 2022年6月末時点、「共通枠組」に基づく債務措置を、チャド、エチオピア、ザンビアが要請中。*17) 近年、アルゼンチンやエクアドルでは、対外民間債務に対してデフォルトを起こし、債務再編が行われた。こうした新興国は、対外公的債務残高に占める民間債権者のシェアも大きく、債務問題への彼らの関与が一層重要となる。ファイナンス 2022 Jul. 19(参考)低所得国の対外公的債務支払額(参考3)低所得国の対外公的債務支払額債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)と債務問題の今後の展望(出所)世銀IDS及びDSSIに基づく債務支払猶予額を基に筆者作成。(出所)世銀IDS及びDSSIに基づく債務支払猶予額を基に筆者作成。(単位:億ドル)示唆しており*14、実際にパキスタンやエチオピアでは民間債権者のDSSIへの参加を念頭に格下げされる可能性も示された*15。こうした懸念に対処し、民間債権者の参加を促すため、彼ら向けのDSSI実施要領や、デフォルトをトリガーさせないウェイバー条項を盛り込んだ契約雛形等も作成された。しかし、中国政府が“民間金融機関”と主張する、鵺のような中国国家開発銀行を除いて、民間債権者のDSSIへの参加は得られなかった。(以上)

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