ファイナンス 2022年7月号 No.680
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(https://www.mof.go.jp/english/policy/international_policy/convention/g20/g20_201113_1.pdf)3DSSIの成果DSSI対象期間中(2020年5月~2021年12月末)、凡そ50か国の国が恩恵を受け、債務支払猶予額は、以下の通り、129億ドルと推計される*9。*10*11*8) 2020年11月13日G20財務大臣・中央銀行総裁特別会合声明のアネックス2に記載。 *9) DSSI要請状況をもとに集計した計数(各々の計数において、単位未満を四捨五入している)。確定値ではなく、推計値としているのは、本稿執筆時点で、一部の債権国と要請国との間で二国間合意が完了しておらず、要請取り下げ等による計数の変更が起こり得るためである。なお、ドルへの換算レートは、当初分は2020年4月30日、延長分及び再延長分は2020年12月23日時点のものを使用している。*10) 当初DSSIの額、延長DSSIの額及び総額はG20財務大臣・中央銀行総裁会議声明から引用。再延長DSSIの額はその差し引きで算出。なお、中国政府は、中国国家開発銀行(CDB:China Development Bank)が民間債権者として、当初DSSI及び延長DSSIに参加した旨発表しており(CDBのウェブサイトで公表)、それぞれの期間にはCDBの自己申告による債務支払猶予額が含まれている。再延長DSSIについては、CDBは債務支払猶予の実施の有無を含め、明らかにしなかったため、当該額は含まれていない。*11) 非G20・非パリクラブのポルトガル、G20・非パリクラブのトルコの2か国は、一部の要請国について、パリクラブ債権国と共に対応したため、当*12) 国際金融機関の支援としては、DSSI対象国に対して、2020年4月〜2021年12月までの間に、IMF総融資額260億ドル(純額214億ドル)、*13) 国際金融協会(IIF)によると、DSSI対象国のうち、民間債権者からの借入は半数程度、ユーロ債券を発行しているのは22か国。該分の債務支払猶予額はこの内数に含まれている。MDBs総支出額660億ドル(純額482億ドル)、を計上。(2020年5月~ 当初 12月末)57億ドルうち、日本(2021年1月~ (2021年7月~ 再延長 12月末)G20及びパリクラブ*1026億ドル129億ドルうち、パリクラブ*1125億ドル11億ドル11億ドル46億ドル5億ドル4億ドル4億ドル12億ドル延長 6月末)46億ドル総額 18 ファイナンス 2022 Jul.がないまま、最初から、二国間で個別に交渉を行っている。その他、実効性を確保するために、DSSI要請から二国間合意まで相当の時間を要するため、債権国は二国間合意で法的な手当てが完了する前でも、DSSIの要請があったことをもって、事実上、債務支払猶予を開始する取扱いとした。また、DSSIよりも前から発生していた延滞債務は、DSSI実施期間中は返済を求めない整理となった*8。パリクラブの額は全体の半分にも満たず、非パリクラブ国を巻き込むことが如何に重要かは明らかである。低所得国は、DSSIで支払猶予を受けた129億ドル分を保健分野等への優先的な支出配分に貢献することができ、DSSIは、国際金融機関からの支援*12と合わせて、こうした諸国の社会・経済活動を下支えしたと言えよう。(1)非パリクラブ国との協調:パリクラブの場合、4DSSIの教訓DSSIは短期間の言わば突貫工事で合意した取組みであったこともあり、様々な問題が実施過程で顕在化した。このうち、大きな課題として、2点紹介したい。要請国との調整の窓口役を務めるパリクラブ事務局に全ての情報が一元的に集められ、同事務局がパリクラブ債権国の措置の整合性の確保のために重要な役割を果たした。一方で非パリクラブ債権国については、全体を俯瞰して進捗管理等を行う事務局が存在せず、パリクラブ事務局としても、越権行為を承知で、非パリクラブ債権国の情報収集に乗り出し進捗管理等を行えるような例外的で踏み込んだ体制を確立するには至らなかった。G20作業部会が全体の進捗モニタリングを行っていたものの、非パリクラブ債権国の措置は基本的に彼ら任せとなり、その結果、特定の要請国を巡り、パリクラブ債権国だけがDSSIを実施し、非パリクラブ債権国は実施していないと思われる事象が散見された。この問題は最後まで解消せず、課題として残った。(2)民間債権者の参加:G20・パリクラブはDSSIに参加することが当然とされた一方、民間債権者は、同等の条件でDSSIに参加することを「要請」されるに留まった。このように官民の債権者の間で差異を設けたのは、民間債権者には、銀行や資産運用会社、ヘッジファンド等、多種多様のステークホルダーが複雑な契約形態で関与*13しており、one-size-fits-allのアプローチの採用が困難であること、民間債権者に債務支払猶予を強制すれば、DSSI要請国の国際金融市場からの将来の借入コストの上昇、ひいては民間投資資金の流入減少が懸念されたこと等が背景にあり、公的な二国間債権者との性質の違いに鑑み、あえて意図的にそのようにしたのである。更に、格付会社は、民間債権者によるDSSIの実施は、公的な二国間債権者の場合と異なり、ソブリン債の信用格付に適用する評価手法に基づき、実質的なデフォルトと見なすことを

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