ファイナンス 2022年7月号 No.680
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1DSSI合意までの背景途上国、中でも民間投資資金の流入が限られている低所得国は、インフラ整備等の膨大な開発資金ニーズに必要とされる資金の多くを、海外からの借入で賄っその他民間債権者ユーロ債券非パリクラブ(除く中国)中国パリクラブ国際機関その他民間債権者ユーロ債券非パリクラブ(除く中国)中国パリクラブ国際機関(単位:)*1) 本稿において意見の表明に当たる部分は、筆者個人の見解であり、財務省、日本政府の意見を代表するものではない。ありうべき誤りは全て筆者個人*2) 対外債務の返済が困難となった国に対し、二国間の対外公的債務に係る債務再編措置(債務の繰延や削減)を取り決めるための、主要債権国による非公式会合。日本を含む22か国(G7諸国(加・仏・独・伊・日・英・米)・オーストラリア・オーストリア・ベルギー・ブラジル・デンマーク・フィンランド・アイルランド・イスラエル・韓国・オランダ・ノルウェー・ロシア・スペイン・スウェーデン・スイス)が参加。*3) 2022年6月末時点、アフリカ諸国では低リスクに分類される国がなく、一層懸念されている。(出所)IMFブログ(2022年4月7日)構成割合構成割合構成割合構成割合(出所)ブログ(年月日)(単位:%)(単位:)(出所)ブログ(年月日)(単位:)低リスク中リスク高リスク債務破綻*1近年、低所得国を中心に、開発途上国の公的セクター(政府や政府系機関等)による海外からの借入が増加し、債務持続可能性への懸念が高まりつつある。こうした中、新型コロナウイルス感染症の拡大が低所得国の経済活動や国家財政を直撃し、多くの国が当面の資金繰りに窮する事態に陥った。この事態に対処すべく、2020年4月、G20及びパリクラブ*2は、「債務支払猶予イニシアティブ(DSSI:Debt Service Suspension Initiative)」を立ち上げ、低所得国が抱える公的債務の支払いを一時的に猶予する措置に踏み切った。DSSIは2年弱実施され、2021年末にその役割を終えた。本稿では、DSSIの成果や教訓を紹介し、今後の債務問題を考える上での足がかりを提供することとしたい。(参考)低所得国における対外公的債務残高(対比)と債権者構成割合(参考)・世銀の低所得国向け債務持続可能性分析における格付比率債務残高対比に帰する。執筆者の肩書は令和4年7月1日現在。債務残高対比(出所)IMFブログ(2022年4月7日)(出所)ブログ(年月日)債務残高対比債務残高対比(参考2)IMF・世銀の低所得国向け債務持続可能性分析における格(参考)・世銀の低所得国向け債務持続可能性分析における格付比率付比率(単位:%)(単位:)(参考1)低所得国における対外公的債務残高(対GDP比)と債権者構成割合 16 ファイナンス 2022 Jul.ている。これまでは、日本を含む伝統的な先進債権国(パリクラブ国)がそうした資金の出し手であったが、近年、パリクラブには所属しない、中国等の新興債権国やユーロ債券の保有者を始めとする民間債権者が主要な資金の出し手として存在感を高めている(参考1参照)。低所得国が抱える公的債務は年々累積し、IMF・世銀は、いまや過半数の低所得国が債務破綻状態又は債務破綻に陥る高いリスクがあると警鐘を鳴らしている(参考2参照)*3。こうした中、新型コロナウイルス感染症は、低所得国の経済活動を直撃し、国家財政の悪化に拍車をかけることとなった。(参考)低所得国における対外公的債務残高(対比)と債権者構成割合パリクラブが主要債権国だった一昔前であれば、パリクラブが対応を検討し、アクションを起こすことで、多くの問題に対処できたが、今日、中国等の新興債権国を含むG20が、パリクラブと共に、途上国の債務問題への統一的なアクションを主導する形となっている。2020年3月25日、IMF・世銀がG20に対し、低所得国の債務支払を猶予すべきとの提言を盛り込んだ共同国際局開発政策課 開発金融専門官 小荷田 直久*1/同 調整係長 川野 晋平*1債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)と債務問題の今後の展望

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