ファイナンス 2022年6月号 No.679
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佐藤泰裕 東京大学大学院 教授(写真左)仙波大輔 JR西日本 課長代理(写真右)【ご発表の様子】都市経済ワークショップの開催 90 ファイナンス 2022 Jun.財務総合政策研究所では、例年、経済環境の変化や経済活動の実態を把握し、今後の調査・研究に役立てることを目的として多様なテーマに基づくワークショップを開催しています。今年度は、コロナショックや中長期的な人口動態の変化が、人の移動や経済活動の集積にどのような影響を与えるのかという問題意識に基づき、「都市経済ワークショップ」を開催し、東京大学より佐藤泰裕教授、西日本旅客鉄道株式会社(以下、「JR西日本」)より仙波大輔様をお招きしてご発表をいただきました。以下、2022年4月25日にオンライン形式で開催されたワークショップでの発表内容の概要をお届けします。-都市経済ワークショップ議事次第-〈セッション1〉「空間経済学の観点から見た日本の人口動態」〈セッション2〉「西日本における中長期的な鉄道輸送人員の推移」発表者:仙波 大輔 様JR西日本 輸送課 課長代理発表者:佐藤 泰裕 様東京大学大学院 経済学研究科 教授セッション1: 「空間経済学の観点から見た日本の人口動態」佐藤 泰裕 様(東京大学大学院経済学研究科教授)東京大学の佐藤先生からは、空間経済学における都市化の基本的な考え方をご説明の上、都市の最適規模の決定や、出生率と都市化の関係性などについてご発表をいただきました。まず、都市の最適規模について、理論的には、都市化によるメリット(産業集積など)とデメリット(混雑など)のバランスがとれている状態であることとされており、東京をはじめとする大都市の規模が過大か過小かという研究によると、東京は、大阪とは同程度で、名古屋や神戸と比べると相対的に過大と言えるとの指摘がありました。次に、都市化と出生率の関係について、東京のような大都市の出生率が低いのは、子育てに伴う費用が大きいことなどが要因ではあるものの、その他の人が集まる要因に影響を受けると考えられることから、大都市においてのみ、出産育児環境を改善させると、さらに人口集中が加速し、結果として少子化への改善効果を打ち消す可能性があることが指摘されました。そのため、出産育児支援は全国一律で行う必要があること、強制的に都市化を止めることは多くの人の機会と集積の経済を犠牲にすることが指摘されました。また、地域経済政策と少子化について、租税競争の観点から理論的に考えることが可能で、企業の方が住民よりも移動しやすい場合には、企業に配慮した意思決定が行われやすいと考えられますが、人口の状況によっては投票において重視される意見が変わり、少子化が進んで人口が減少すると、企業ではなく住民へのコラム  都市経済学と空間経済学都市経済学とは、都市の構造や機能・発展のメカニズムのような、都市という対象を通して経済分析をする学問分野です。そこからさらに射程を広げ、都市を含む地域や国の間の関係も併せて人や産業の地理的分布を分析するのが空間経済学です。

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