ファイナンス 2022年6月号 No.679
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86 ファイナンス 2022 Jun.済は日本が先頭となり、シンガポール、韓国、台湾等が連なり、雁が飛んでいくように、成長を引っ張ってきたという議論(雁行型発展論)がありました。中国の先富論においても、先に富んだ者、基幹産業が成長を引っ張っていくということで、この雁行型発展論が応用されていたのです。成長のウェイトは、最初は海外からの直接投資が中心でした。90年代当初には中国への海外直接投資が少なかったため、投資が入れば成長率が上がることは明白でした。海外直接投資から段々と自分の経済が豊かになってきて、輸出志向型、これも日本や韓国などがやった方式を踏襲して、中国も輸出主導でやってきたものが、今では限界に達してきたのかと思います。結局のところ、成長率については92年以降、この30年間で14%前後をピークに緩やかな減少傾向が続いています。今年は、党大会があって習近平が3期目に突入するときなのに、成長率の目標値は昨年の6%以上から5.5%前後に引き下げられていて、実際には5%成長も難しいように感じます。こうした要因として、私の政治学者としての見解は、本来やるべき政治改革を、社会主義市場経済の中で断行すべきところ、江沢民体制以降行うことができていないことにあると考えています。共産党の体制そのものを相対化していかなければならなかったところ、それができず、全体的な改革も不十分なままです。江沢民が2000年に「三つの代表思想(共産党は先進的な社会生産力、先進的な文化、人民の根本的利益を代表する)」を発表したことで、共産党員の特権階級化が実質的に正当化され、子弟を留学させ、自分の資産を海外に移すということが横行しました。彼らが別荘を買い、特権を利用すること自体が階級の出現ではないかと議論してきましたが、結局共産党はこの人たちの権利を否定しなかったわけであり、「先富論」の一つの大きな過ちはこの点であって、結果として政治腐敗が蔓延することになりました。鄧小平後のリーダーは、既得権益層を取り締まるような制度的な枠組み、例えば、相続税、累進課税、固定資産税など税制の改革に様々取り組む姿勢は見せましたが、今でも基本的に何も変わっておりません。その後、胡錦濤体制が始まり、このままでは共産党が崩壊するという危機感を持ち、党の改革をやろうとしました。胡錦濤は今言われている「共同富裕」と同じような「和諧社会」という、調和のとれた社会建設を目指していましたが、権力基盤が弱く、既得権益層の反発に遭いました。そのため、習近平が2012年に権力についた際に、徹底的な腐敗の除去が始まりました。ただし、抵抗が非常に激しく、今もまだ権力闘争を続けているとも聞いています。権力を握らないと結局のところ政策が実行できない、邪魔されるということかと思います。当初、習近平は「依法治国」を強調し司法強化を訴え、それほど党の指導を前面に出してはいなかったのですが、それが異常なくらいに出始めたのが2014年の秋頃からで、既得権益層の抵抗に遭って、党を守らなければという意識が強くなったのだと思います。なので、それ以後は自分の権力固めと、体制の強化、監視体制の強化へと走っているように見えますが、腐敗については相当に除去されてきたと思います。この面では、大衆からは支持されています。話を少し経済に戻しますが、これまでの経済成長の原動力は概ね投資でしたが、もう既にバブルが様々なところで弾けているため、これ以上の投資依存は難しいでしょう。では、経済成長の原動力をどこに見出すかとなると、AIやデジタルでは雇用を生み出さないし、多くの若者が大学卒になっている中で、今年の卒業生の人数は1,000万人超になる予定です。昨年は900数十万人の卒業生のうち、大学院を受けたのが475万人、今年は500万人近く受験すると思いますが、これは仕事がないことの証しだと思います。中国の雇用統計は特に若年層に関しては不明なところが多いのですが、若年層の失業率は20%近いとの数字も出ていますね。恐らく製造業が弱っているため、若年層の雇用が相当大変になっているのでしょう。また、米中関係における摩擦の問題や、新型コロナウイルスなどの問題もあります。更に、賃金も上がり、ホワイトカラーが増えてきたことに加え、一人っ子が多くなっているため、就職先として製造業を望まない傾向があります。経済成長が鈍化する中で、どうやって成長場所を探し出すのか。対外的な関係では、「一帯一路」のコンセプトで周りの国と一体化して、運命共同体になることによって双方向の投資と市場を増やしていくことを

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