ファイナンス 2022年6月号 No.679
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PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 8*4) 2021年8月に習近平より打ち出された格差是正を目指すスローガン。市場主導の「一次分配」、政府主導の「二次分配」、民間の寄付・公共事業に誘導される「三次分配」の役割が強調されている。ファイナンス 2022 Jun. 85いという意向を強く持っていました。当時はちょうど日本のバブル崩壊もあり、中国側もそのような問題についてもきちんと理解しておきたいということで、1994年、1995年頃でしょうか、中国側との太いパイプがあったこともあり、研究会のメンバー全員で中国を訪問し、中国側と意見交換をすることもありました。訪中に際しては、中国側と共同でセミナーを開催したり、朱鎔基(当時副総理)と会見し、率直に話し合ったことを覚えています。そうした機会にも、やはり日本の経験をこれから教えて欲しいということを強調していました。―中国研究会では、中国のマクロ経済、財政金融、内政・外交などの分野で、その時勢に応じたテーマを取り上げています。中国経済が直面するこれらのテーマについて、お考えをお聞かせください。研究会当初から現在に至るまでの議論の中心は、やはり社会主義市場経済の体制的整備の問題であり、それは金融・財政制度、国有企業、そして政治体制や外交の問題にも及んでいました。社会主義市場経済が最初に提起された1992年の第14回中国共産党大会から30年が経ちましたが、現在は中国で、社会主義市場経済という言葉をあまり言わなくなりました。「南巡講話」から今年が30年に当たり、社会主義市場経済30周年記念でもあるのですが、今年中国国内では目立った議論もありませんでした。代わりに強調しているのが「マルクス主義」ですから、鄧小平の成長路線がほぼ終焉したということなのだと思います。昨年出た歴史決議の中にも、鄧小平の評価は数行しか触れられていません。研究会では、その時々の情勢に応じて、相応しいテーマを選んでやってきたというふうに記憶しています。それぞれの業界の企業の方々にも入っていただいて、その企業の抱えている問題や、現地の話なども踏まえて議論をしてきました。中国を見るときに、特に我々が中国研究会などで抜け落ちがちな視点を入れないといけないのが、社会の変化という部分です。改革開放40年で、中国の社会は相当大きく変わってきています。経済は全体として伸びているのですが、より大きな問題は、中国共産党が政治指導していることによる不透明性、或いは統計やデータの信頼性の問題など、中国の実態が見えにくいということだと思います。こうした議論はこれまでも多く指摘されているところですが、そうした状況の中でも、社会の変化に合わせて、優秀な人材についてはかなり育ってきていると思います。また、もう1つの点は、改革開放によって民営企業が中国を引っ張ってきたということで、これらが我々の1つの共通理解になっていたことは間違いないと思います。ただその一方で、研究会でも議論がずっと続いていたことですが、国有企業依存の部分を変えきれていない。2002年から始まる胡錦濤体制では、一部私有財産を認めて、資本主義に向かう準備が進むといううっすらとした期待があったように思いますが、その後も大きな改革には至りませんでした。いずれにしても、そのような中国の大きな変化の流れの中で、それを読み解き、議論する場としての中国研究会が続いてきたということではないかと思います。これほど長い期間、中国経済を核に、政治、外交、社会まで観察し、自由に議論してきた研究会は他にないと思います。―中国共産党・政府がスローガンとして掲げている「共同富裕*4」につきまして、中国の政治体制も踏まえたところで、座長のお考えを伺えればと思います。中国が言っている「共同富裕」という言葉ですが、社会主義体制を強化するという意味があると思っています。その際、再分配をどうやって補うのかという点について、いろんな制度的な問題もある中で、中国経済の成長基盤はどこなのかということになります。こうした議論が、これまでの中国研究会の中でも一貫して続けられてきたように思います。現在は「共同富裕」ですが、鄧小平は「先富論」でした。「先富論」は、先に豊かになったところが引っ張るということで、社会主義市場経済とは、そういう意味だと理解されていました。90年代頃、アジア経

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