ファイナンス 2022年6月号 No.679
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職員トップセミナー ファイナンス 2022 Jun. 75(2)「明月記」が低緯度オーロラを記録年前に日本人の食卓にのぼっていた大変おいしい献立を再現しました。例えば、ホシザメではんぺんを作るとか、あるいは江戸時代にうなぎを串焼きにして売っていたという記録があります。作り方も料理本の中にありましたので、ウナギ屋さんにこれを伝えたところ、ぜひこれを作りたい、と言って再現することになったり、現在は展開していないたくさんの新しい商品につなげることができました。18世紀の終わりに、京都で「豆腐百珍」という非常に有名で面白い料理本が出版されています。これは豆腐だけを使って百種類のレシピを描いたもので、豆腐好きにはたまらない書物です。江戸料理のフェアでは、その中から2つほど献立を作っていただきました。このイベントは、大学共同利用機関である国文学研究資料館が百貨店と共同してこのように直接的に一般市民に研究成果を発信するという、非常に稀有で有難い機会でした。今月の初め、太陽活動の大きなイベントが起きたことによって米スペースXが人工衛星40基を喪失し、大きな損失を被ったことが報じられました。太陽活動が私たちの情報インフラに大きな影響を及ぼすことは以前から知られていましたが、米スペースXの件は大きなニュースになりました。太陽系あるいは太陽活動の記録は様々な国において歴史的に記録されていますが、ほかの地域や国に比べて宇宙のイベント、気象イベントの緻密な記録が取られていることが日本の文学資料の一つの特徴です。例えば、国宝に指定されている藤原定家の「明月記」の中において、定家が「京都の北山に夜な夜な赤い明りが見えて、それがカーテンのようになびいていて、まがまがしい光景である」と記述している箇所があります。これはそれこそ末法思想、この世の終わりを思わせるような記述ですが、それが具体的にどういうことだったのか、江戸時代からの謎でした。それが3年ほど前に国文学研究資料館と国立極地研究所という機構が異なる機関が共同研究を行うことによって、実はこれが日本における「低緯度オーロラ」の最古の記録であることを突き止めることができました。つまり、鎌倉時代に太陽活動が激しくなって地球に大きな磁気嵐が発生したため、緯度が高くない京都あたりでも赤味がかったオーロラを観察することができて、それを「明月記」が記録していた。このことを地質学、天文学の先生達と我々の解読チームが突き止めたのです。この研究はアメリカの「Space Weather」という専門誌に発表され、歴史の中でどういうスパンで太陽活動が生じ、また休眠状態になるのか、ということについての非常に重要な一つのメルクマールになると注目されています。文理融合的な研究がこういうところで行われるということなのです。本日お話した古典籍は、2017年10月から公開している国文学研究資料館の「新日本古典籍総合データベース」に掲載されています。もちろん無料ですので、ぜひ興味のある検索ワードを入れてみてください。様々な絵と画像、挿絵、原文、あるいはそれにまつわる情報にアクセスすることができます。この事業は国の「大規模学術フロンティア促進事業」によるもので、今年で9年目になります。「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップ」に文系のフロンティア促進事業として唯一採択され、進めています。7.「新日本古典籍総合データベース」飢饉が起きると、当時の学者たちは知恵と資金を集め、あるいはスポンサーのような人を募って、生き抜くための様々な知恵をできるだけ広く庶民に流布させるよう努力しました。米沢藩のように公費を使って庶民に一枚刷りを渡すなど、わかりやすく情報を伝えている藩もあります。そして、飢饉から2か月、3か月の時差で感染症が必ずついてきます。栄養失調で免疫力が弱まり、麻疹や天然痘、幕末にはコレラがやってくるわけですが、感染症が必ず飢饉とダブルで襲ってきます。

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