ファイナンス 2022年6月号 No.679
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*48) 北出智美・成瀬唯『Crossing the Red Line 日本のエキゾチックペット取引』TRAFFIC、2020年6月*49) WHO Global Surveillance and Monitoring System for Substandard and Falsified Medical Products, World Health Organization, *50) Launch of a new WCO project on Customs control of fake vaccines and other illicit goods linked to COVID-19, World Customs 2017Organization, March 9, 2021*51) COVID-19-related Money Laundering and Terrorist Financing:Risks and Policy Responses, FATF, May 2020 *52) 「新型コロナウィルス感染症に便乗した詐欺に注意」警視庁、2021年4月1日Update:COVID-19-Related Money Laundering and Terrorist Financing Risks, FATF, December 2020※ 本稿に記した見解は筆者個人のものであり、所属する機関(財務省及びIMF)を代表するものではありません。ファイナンス 2022 Jun. 71図表6:ナマコの密猟につき、組織的犯罪の関与を示す各都道府県の事例分布(報道件数の累計による参考値)(出典:WWFジャパン調べ(2022))群がるのが犯罪組織である。今後とも、海産物は勿論、それ以外の野生動物の違法取引について、犯罪組織の関与が疑われるものはないか、マネロン規制というツールを十分に活用しながら、社会的に監視を続けていく必要があろう*48。以上、国内外を問わず、野生動物の違法取引が今や犯罪組織の資金源として、大きな位置付けを占めている現状を見た。野生動物保護というと、ともすれば環境問題や動物愛護に関心を持つ、一部の人々の専売特許と思われがちである。勿論、そのようなテーマに対する意識を高く持っているに越したことはない。しかし極端な話、そのような方面でのアウェアネスが全くなくとも、組織犯罪の撲滅を願う健全な市民感覚すらあれば、野生動物の違法取引は是非とも関心を持つべき問題なのである。そして、ことは野生動物に留まらない。繰返しになるが、犯罪組織が目を付けるのは、独占性・高収益性といった特質を持つ裏ビジネスだ。その典型は麻薬であり、そうであればこそマネロン規制の歴史も人類の麻薬との闘いから始まった訳であるが(図表7)、社会は常に、これと類似の「ビジネス・モデル」に事欠くことはない。ごく一例を挙げれば、全く薬効がないばかりか時には有害ですらある偽薬(フェイク・ドラッグ)の製造・取引等は以前より問題視されていたが*49、このコロナ禍において偽ワクチンの問題として、再度大きくフォーカスされている*50。同様にコロナ禍に乗じた犯罪類型の隆盛は世界的にも憂慮されているが*51、特に日本で特に広まっているのは、良く知られている通り給付金等に係る詐欺であり*52、これらは高齢者を狙った特殊詐欺の延長上にある。時代とともに組織犯罪は多様化し、発展していく。新たな犯罪ビジネスが出現し、或いは出現しそうになった時に、いち早くそれらを関知し、マネロン規制を軸とした有効な対策を如何に先手を打って取っていけるかに、組織犯罪撲滅の成否は掛かっているのである。図表7:麻薬犯罪と政策対応(再掲・概念図、筆者作成)本章ではマネロンとの関係性において刑事政策の在り方を考察してきたが、今日、地下資金対策に最も大きな影響をもたらす変化と言えば、間違いなく仮想資産、ステーブルコイン、中央銀行デジタル通貨(CBDC)といった、デジタル資産の登場であろう。次回の最終章においてはこの大きなテーマを取り上げ、本連載全体を締め括ることとする。

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