ファイナンス 2022年6月号 No.679
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*44) 例えばセンザンコウに関し、以下参照。 *42) 警察庁『犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和2年)』*43) Money Laundering and the Illegal Wildlife Trade, FATF, June 2020 他方、FATF以外の機関がそれぞれの観点から行った調査の例として、以下。James Wingard and Maria Pascual, Following the Money:Wildlife Crimes in Anti-Money Laundering Laws – A review of 110 Jurisdictions, Legal Atlas, LLC(commissioned by the United Kingdom Foreign and Commonwealth Of■ce), February 2019Cathy Haenlein and Tom Keating, Follow the Money:Using Financial Investigation to Combat Wildlife Crime, Royal United Services Institute for Defence and Security Studies(RUSI), September 2017Analysis of International Funding to Tackle Illegal Wildlife Trade, World Bank, 2016Chang-Ryung Han, A Survey of Customs Administration Perceptions on Illegal Wildlife Trade, WCO, July 2014World Wildlife Crime Report Traf■cking in protected species, UNODC, May 2020, P.13Red List:Temminckʼs Pangolin(Smutsia temminckii), International Union for Conservation of Nature and Natural Resources(IUCN), May 1, 2019ファイナンス 2022 Jun. 69哺乳類でありながら全身を鱗で覆われた希少動物・センザンコウは、その独特な形状から薬効があると信じられ、サイ・ゾウと並んで、主に中国市場を最終仕向地とした密猟の対象となって来ている。 (出典:CC BY 2.0, Wegmann, CC BY-SA 3.0, U.S. Fish and Wildlife Service Headquarters)4.犯罪組織が目を付ける野生動物世界に拡大する違法取引顧客に対して注文内容とは異なる商品を発送し、騙し取った商品の購入代金を他人名義の口座に振込入金させていた事例等がある*42。今次のFATF相互審査において、犯罪人引渡については、日本は幸いにして特段厳しい指摘を受けてない。しかし、国際化に伴い、犯罪を巡る環境は刻一刻と変化している。前節の没収同様、FATFから何も言われなければ事足れりとすることなく、このような外国人犯罪者が、正にゴーン被告のように本国へ逃亡した場合の備えについても、真剣に再考する時に来ているのではないか。我が国は様々な見解の対立を経て国内法を整備し、パレルモ条約に準拠して犯罪構成要件を世界標準に揃えた訳であるが、その趣旨の半分は国際的な連携にあることにつき、今一度認識を新たにする必要がある。冒頭に述べた通り、パレルモ条約によってマネロン規制の前提犯罪は拡大されることとなったが、現在、その具体的な対象として注目されているのが、野生動物の違法取引に係る犯罪である。世界的に広がる違法取引に対抗するため、司直の側もマネロン規制をツールに厳しく切り込もう、というのがその趣旨だ。FATFは2020年、このテーマに関して参加国の議論を踏まえたペーパーを公表しているが、この中では、各国における現状の取組みの紹介と、今後の対応強化策の提言がなされている*43。違法取引の対象となる野生動物やその地域は数多いが、一つの重要な要素として、中国の文化的背景を無視することはできない。中華文化圏では伝統的にサイのツノやセンザンコウの身体が、漢方薬として珍重されてきた。もっとも、例えばサイのツノは我々の爪等と同じケラチンで組成されている等、科学的な薬効は何一つない迷信に過ぎない。しかし、悠久の歴史の中で培われた人々の認識を直ちに変えることは難しく、未だに違法取引が絶えない。また、取締りが進み希少性が上がると、寧ろ闇市場での商品価値が上がるという皮肉な循環を生んでいるともされる。さて、アジアからアフリカに至る、いわゆる旧大陸に属する哺乳類は、地理的な連続性から距離が離れていても相互に共通するものも多い。サイやセンザンコウ、また、象牙取引で問題となるゾウといった動物についても、複数の種分化を伴いつつも、アジアとアフリカにまたがって分布している。アフリカ大陸にはアフリカゾウ(耳の大きい方)が、アジアにはアジアゾウ(日本の動物園に多い方)がいる、といった具合である。そして、これらの動物は長く乱獲が行われてきたアジアでは特に数を減らしているため、その密猟場所が、この半世紀の間徐々にアフリカへと遷移しているという事実がある*44。それに伴い、密猟から仕出・中継・最終消費地へと連なるサプライ・チェーンは世界的に拡大してきた(図表5)。当然、世界の広域を股に架けたこの大規模な密猟ビジネスは、個人の力で取り仕切れるものでは到底なく、そこが犯罪組織暗躍の新たな場となっている。

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