ファイナンス 2022年6月号 No.679
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*35) UK Central Authority, International Criminality Directorate, Public Safety Group, Home Of■ce; *36) Mutual Evaluation Report, Republic of Korea, FATF, April 2020, P.32 *37) Council Framework Decision of 13 June 2002 on the European arrest warrant and the surrender procedures between Member *38) Amnesty International;https://www.amnesty.org/en/what-we-do/death-penalty/*39) FATF(2017), op.cit.*40) 豪中犯罪人引渡条約第3条(f)項。オーストラリア議会ウェブサイト; *41) しかし、これはいわば「偽装引渡」であり、正規の手続きによれば享受できたはずの政治犯不引渡原則等の権利・利益が、司法判断に行政府の判断がhttps://www.gov.uk/government/publications/international-mutual-legal-assistance-agreements/mutual-legal-assistance-and-extradition-treaty-list-accessible-versionMutual Evaluation Report, Peopleʼs Republic of China, FATF, April 2017, P.260States, The Council of European UnionCommission Notice ̶ Handbook on how to issue and execute a European arrest warrant, European Commission, October 6, 2017REPORT FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT AND THE COUNCIL on the implementation of Council Framework Decision of 13 June 2002 on the European arrest warrant and the surrender procedures between Member States, European Commission, July 2, 2020https://www.aph.gov.au/Parliamentary_Business/Committees/Joint/Treaties/NuclearCoop-Ukraine/Report_167/section?id=committees%2Freportjnt%2F024024%2F24292優位する形で奪われてしまう、との批判がある(芹田健太郎『犯罪人引渡:中国民航機乗っ取り事件を契機に』法学教室117号、1990年6月)。 68 ファイナンス 2022 Jun.格としても、英国の33本*35、また、韓国・中国も各々77本・45本の二か国間条約を、他国との間で締結している*36。各国の国内法制からの分析含め、条約の実質的意義について仔細な検討は必要であるが、それにしても日本の少なさは際立っている。なお、EU加盟国については2004年以降、「欧州逮捕状(EAW:European Arrest Warrant)」と呼ばれる制度の下、域内での引渡しが円滑化されており、双罰性の要求が大幅に緩和されるとともに、自国民であることのみを理由とした引渡拒否は許されないこととなっているため、少なくとも域内であれば自国民についても広範な引渡しが可能である*37。この点、日本が死刑制度存置国であることが、死刑廃止国との間での引渡条約交渉を妨げているとの説明がなされることが多いが、単純化した理解は禁物である。現に中国は、ここ最近減少傾向にあるとは言え、2020年には483件を執行したとされる、世界一の死刑大国である一方で、*38前述45か国の引渡条約締結相手国の中にはフランス、イタリア、オーストラリアといった死刑廃止国も含まれているのだ*39。また、世界一の引渡し条約ネットワークを持つ米国も、死刑廃止州・存置州の両方を抱えることは周知の事実である。それでは、なぜこれらの国が廃止国との条約締結を行い、相手国の国民の引渡しを受けられるようになっているかと言えば、条約中に、引き渡した犯罪人が死刑になる可能性がある場合は引渡しを拒める、との例外規定を置いているためである*40。これは、日本においても死刑の存置のみを以って、引渡条約そのものを締結しないことの理由にはできないということを意味する。上記のような制約規定には、司法判断を事前に予断することの是非という論点はあるが、そもそも、嫌疑が掛かっている犯罪の法定刑中に死刑が含まれていないものまで、一律に引渡条約の対象とできないというのは、合理性に乏しいことは確かであろう。では、なぜ日本は条約締結に消極的なのであろうか。これに関しては、実務・研究の双方に置いて正面から検討した経緯が余り見当たらない。強いてその理由を考えれば、我が国において越境犯罪が問題になる多くの事例が、国内で罪を犯した日本人が海外に逃亡した場合であるためかも知れない。逆に言えば、ゴーン事件のような、日本で起きた犯罪で嫌疑を掛けられた外国人の国外逃亡事例は、相対的に僅少ということだ。海外に逃げた日本人を捉えるということであれば、犯罪人引渡という手続きを取らずとも、相手国から不法滞在等を理由とした強制送還を受けることで、実質的に目的を達することができる*41。他方で、欧米では外国人被疑者の逃亡事例が相対的に多い。米国及び多くの欧州諸国では、我が国と比して寛容な移民政策が取られており、出身国の国籍を維持しつつ、移民先の国との二重国籍を保有している市民が多く存在する。これらの国においては、移民の二重国籍者が犯罪を起こした後に、出身国に逃亡する例が頻繁に見られるのであり、このような事案に対応する政策的必要性が高い。しかし、我が国においても、国際化に伴って外国人が国内で引き起こす犯罪は、既に看過することはできないレベルに達している。そして、マネロンもその例外ではない。2020年中に組織的犯罪処罰法に係るマネロン事犯で検挙されたもののうち、来日外国人が関与したものは、計79件・全体の13.3%を占めている。具体例としては、日本在住の中国人の男が、SNSを利用して高級腕時計の販売を装って注文を受け付け、

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