ファイナンス 2022年6月号 No.679
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*1) 正式名称は「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」(1988年12月20日署名、1990年11月11日発効)*2) 第6条*3) 第12〜14条、第20条*4) 第17〜19条、第16条*5) 第8条*6) 勧告36ファイナンス 2022 Jun. 61ファルコーネ判事爆殺の現場。この悲劇によってパレルモは世界の組織犯罪との闘いの象徴的な街となり、高速道路が続く国際空港には現在、彼の名前が冠されている。(出典:Cyril S(reworked), CC BY-SA 4.0)1. マフィアの街で生まれたパレルモ条約悲劇的な暗殺事件から8年の時を経た2000年12月、この地において「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」が締結された。締結地の名を取って「パレルモ条約」と呼称されるこの条約は、一言で表現すれば、組織犯罪と対峙するためのツールボックスである。この条約を紐解けば、組織犯罪という巨悪に立ち向かうために人類社会がその叡智として結実させてきた、多彩な道具立てが揃っている。もっとも、これら一つ一つのツール自体は、麻薬犯罪の防圧を目的とした麻薬新条約*1において既にデザインされていたものであるが、パレルモ条約の重要性は、これらのツールを麻薬犯罪だけでなく、組織犯罪全体を対象として敷衍したことである。主なものだけ見れば、本稿との関係ではまず何より、マネロンの前提犯罪を拡大し「最も広範囲の前提犯罪につき」マネロンが適用されるべきこととした点が重要である*2。加えて、組織犯罪の防圧に当たってはマネロンとセットと言える、犯罪収益の没収及びコントロールド・デリバリー等(第2章参照)についても、締約国において広範な犯罪を対象として導入することとされた*3。更には、捜査・司法に係る国際協力や、その究極的な形である犯罪人引渡についても定められている*4。なお、汚職についてもこの条約によって犯罪化の対象とされたことは*5、第7章でも触れた通りである。このように、パレルモ条約の中でマネロン前提犯罪の拡大が一つの要素として掲げられる一方、国際規範の関係性の全体像という意味では、パレルモ条約はFATF基準との関係において、むしろ内包される位置付けになっている(図表1・第4章参照)。つまり、FATF基準の要求の一つとして、各国は関連する諸条約等の締約国となることを求められている訳であるが*6、その中でも中核となるのが、このパレルモ条約という訳だ。FATF基準とパレルモ条約は、国際規範として組み合わさり、相互に効果を拡幅し合う関係にあると言える。図表1:地下資金対策に関する国際規範の関係性(再掲・概念図、筆者作成)ところで、この条約締結に至る経緯には、実は伏線がある。1994年11月にナポリで開催された国際組織犯罪世界閣僚会議において、同条約の締結が提唱されたのである。時代的背景としては、(1)東西冷戦の終結を機に国際協調の全般的機運が高まったこと、(2)これと同時に、旧東側諸国を新らに活動の場とする組織犯罪の脅威が高まったこと、そして、(3)マフィアとの対決姿勢を国際的に示す必要に迫られたイタリアが、米国と車の両輪となって推進力となったこと、が挙げられる。マネロン規制の出発点である麻薬問題への取組み同様、ここでも、米欧のタッグが世

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