ファイナンス 2022年6月号 No.679
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国家間の共働・軋轢各国の制度国際規範・設計・実施基準の形成還流する地下資金犯罪収益テロ資金核開発等資金刑事政策 外交・安全保障■ 組織犯罪を撲滅するためには、犯罪収益が更なる犯罪へと再投資される還流構造を遮断することが最も効果的であるが、かかる収益剥奪は世界的に見て機能不全。刑罰としての没収をツールとして用いることには限界もあり、長期的な制度論を深める必要。■ 国家間の司法共助、特に犯罪人引渡は、国際社会全体として組織犯罪に対抗していく上で重要性が高い。外国人犯罪が増加する日本においても、本国への逃亡を許さないために、自国民の相互引渡を含めた条約のネットワークを拡大していくことが望ましい。■ 時代とともにマネロンの前提犯罪は拡大しているが、特に近年注目を浴びているのは、野生動物等の違法取引。組織犯罪が目を付ける、独占性・高収益性といった特徴を持つ収益源を早期に発見し、マネロン規制を活用して機敏に防圧策を取っていくべき。シチリア島・パレルモで暗殺されたジョヴァンニ・ファルコーネ判事は、マフィアとの闘いの中で命を落とした多くの警察・法曹関係者の中でも、イタリア国民に特に良く知られた存在である。(出典:Public Domain)本章の範囲 60 ファイナンス 2022 Jun.イタリアのシチリア島北西部に、パレルモという都市がある。同島最大の都市とは言え、現代では余り脚光が当たることのないこの中世シチリア王国の古都は、実は人類の組織犯罪との闘いの象徴的な街だ。シチリアと言えば、言わずと知れたマフィア発祥の地である。70年代の終わりにこの地に赴任した判事、ジョヴァンニ・ファルコーネは、当時イタリアでは新しかった金融捜査の手法を用いて、マフィアの犯罪を次々と暴いていく。しかし、それに対するマフィアの報復は凄惨だった。1992年5月23日、ファルコ―ネ判事は、空港からパレルモ市街に向かう高速道路上で、仕掛けられた大量の爆薬により妻及び警護官3人とともに殺害される。ファルコーネ判事の最大の敵は、実はシチリアではなくローマにあった。当時マフィアと繋がりの深かったイタリアの中央政界である。八面六臂の奮闘にも拘らず、政治からは陰で度々梯子を外されたファルコーネ判事は、次第に苦しい立場に追い込まれて行く。この一連の経緯には、第7章で取り上げた、汚職と組織犯罪、そしてマネロンの歴史的関係性が、これ以上なく明確な形で現れている。ファルコーネ判事の半生は90年代の内にドキュメンタリー化され、日本語版も出されるとともに、オリジナル版は最近になり、ネット上でも視聴できるようになった(『ファルコーネ・マフィア大捜査線(原題:Excellent Cadavers)』)。―犯罪・テロ・核開発マネーとの闘い―マネロンの刑事政策的展開IMF法務局 上級顧問  野田 恒平要旨11

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