ファイナンス 2022年6月号 No.679
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コラム 海外経済の潮流 140(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見である。ファイナンス 2022 Jun. 55【NIO(上海蔚来汽車)】・「自動車新時代」2015年の国連サミットで採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」の達成に向け、世界では環境問題への関心がますます高まっている。自動車産業に関して言えば、米国や欧州、日本などの主要国で、ガソリン車の新車販売を2030年から2040年にかけて禁止していくなど、次々に政策を打ち出している。中国においてもその流れは変わらず、2020年9月の国連総会で習近平国家主席は、「二酸化炭素(CO2)排出を30年までにピークアウト、60年までに(実質的にゼロとする)カーボンニュートラルの実現を目指して努力する」と表明し、2020年10月27日の自動車汽車工程学会では「省エネルギー・新エネルギー車技術ロードマップ2.0」に基づいて、2035年には新車販売のうち、ガソリン車をゼロにし、新エネ車を50%以上、残り全てをハイブリッド車にするという目標を掲げている。設立当初はパソコンや携帯電話向けバッテリーメーカーとしてスタートしたが、2003年に中国国有企業の西安奏川汽車を買収し自動車業界に参入した。その後、2008年に新エネ車の販売を開始し、2009年の減税政策を追い風にシェアを拡大させた。新エネ車は自家用車だけでなく、バスやタクシーなど幅広く販売している。なお、2022年3月にはガソリン車の生産終了を発表している。設立2014年、2021年の年間販売台数9万台で新エネ車のみを販売。中国大手テンセントなどIT企業が多く出資しており、設立からわずか4年の2018年に量産車の販売を開始した。運転支援、駐車、娯楽などの機能にIT技術を駆使し、富裕層をターゲットとした高価格帯のEV車を販売している。販売しているすべてのモデルが交換式バッテリーを採用しており、設置された交換ステーションにて即座にバッテリーを交換することが出来る。1990年代以降、ハイブリッド車が初めて量産されるようになってから、バッテリーやモーターなどの技術向上によりEV車やPHV車などいわゆる新エネ車が数多く誕生した。ガソリン車においても環境負荷軽減のため、燃費改善や排気ガス制御など常に進化を続けていたが、ここ数年でガソリン車廃止の波は急激に押し寄せてきている。一般的にガソリン車に比べてEV車は部品点数が少なく、技術的にも参入障壁のハードルが低いと言われている。事実、中国でも多くの新興企業が勃興しており、昨年から中国の不動産業界を騒がせている中国恒大集団においても、傘下の中国恒大新能源汽車集団が2022年3月に販売許可を取得し、量産1号車を完成させた。中国に限らず、世界的な大手IT企業をはじめ多様な業界からの参入も進み、自動車産業の構造は大きく変わろうとしている。自動車が誕生して100年余り、その産業は大きく成長していった。人々の関心が「便利」から「環境」へ移りゆくなか、自動車も時代に合わせて形態を変えていかなければならない。ガソリン車が過去のものとして忘れられていくのは、少し寂しくもあるが、次に自動車を買い替える際はEV車なども視野に入れつつ、今後の自動車産業の行方を注視していきたい。

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