ファイナンス 2022年6月号 No.679
56/106

22/0422/0121/1021/0721/0421/0120/1020/0720/0420/0119/1019/07202220212020201820172016201520142013(円/ドル)14013012011010090807020122019(注)東京市場、スポット、17時時点。(注)5月12日時点での値。東京市場、スポット、17時時点。(注)清水・伊藤・鯉渕・佐藤(2021)より引用○ ファイナンシャル・ヘッジ  (為替市場を通じた対応)  ● 為替予約(フォワード)  ● オプション(将来の通貨売買の権利取引)  ● 外貨建て負債の保有○ オペレーショナル・ヘッジ  (企業活動の中で外貨建ての収入と支出を一致させる対応)  ● マリー・ネッティング(キャッシュフローの相殺)  ● 海外生産移転○ 貿易建値通貨の選択○ 価格設定の変更(パススルー)・輸出入を行う企業は、取引が外貨建ての場合、為替レートの変動によって自国通貨に換算した収益が左右され、変動が大きいと企業収益への影響は高くなる。(図表1、2)・為替変動が企業収益に与える影響(=為替リスク)は、業種や個社の対外取引の規模により異なる。一般的に、円安局面では、外貨建てで輸出を行う業者は増益、輸入を行う業者では減益となる(図表3)。・為替リスクの大きさを示す「為替感応度」は、企業の業績見通しを決める際に設ける想定為替レート(図表4)から実際の市況レートが1円動いた場合の年間の企業収益への影響額を示す指標である。輸出割合が高い自動車業においては円安が収益に対してプラスに働き、海外から商品や原材料を輸入する業者においてマイナスに働くことなどが、個社ごとに公表されている(図表5)。(図表1)為替レートの推移(図表2)為替レートの変動幅と変動率2017年2018年2019年2020年2021年2022年・企業は為替リスクを軽減するため、様々な手法で「ヘッジ」をかけている。ヘッジの手法はいくつかに分類されるが(図表6)、導入しやすい手法として為替予約やオプション等のファイナンシャル・ヘッジが挙げられる。・ファイナンシャル・ヘッジの利用は近年拡大している。製造業のうち主要な輸出企業に行ったアンケート調査では、98.2%の企業が為替予約を利用していると回答しており(図表7)、将来の受払の外貨建て金額に対して100%為替予約を行うことを社内ルールで定めている企業も増加している(図表8)。また、非金融機関の為替デリバティブ取引の規模も年々増加傾向にあり(図表9)、為替市場を通じたヘッジ手法の活用が拡大してきたことが示唆される。・ただし、主なリスクヘッジの期間は3か月としている企業が多く、この為替ヘッジ期間を超えた為替変動の収益への影響を回避できるわけではない。ファイナンシャル・ヘッジには一時的なリスクヘッジ効果はあるものの、本質的に為替リスクを抑制するためには、別の手法を取る必要がある(図表10)。(図表6)為替リスクヘッジの代表的な 手法と分類10.29.36.8変動幅(円)変動率(%)8.78.26.2変動幅は最高値から最低値を差し引いた値。変動率は変動幅を前年末値で割った値。(図表3)為替による影響の例《円安の場合》輸出企業(図表7)主要な輸出企業における ファイナンシャル・ヘッジ利用割合98.2100全体大規模小規模(図表8)為替予約の実施割合(注)2017年50403020100約30%(うち規模別)1ドル100円から1ドル120円に変化1ドルで輸出する契約輸入企業1ドル100円から1ドル120円に変化1ドルで輸入する契約9.512.617.58.712.215.2(%)100806040200為替予約大規模小規模為替が受け取ったドルを円に換えたとき当初より20円プラス為替が円をドルに換えて支払ったとき当初より20円マイナストヨタ自動車(自動車)ニトリホールディングス(小売業)日本製紙1円の円安が対米ドルで年間400億円、対ユーロで60億円の営業利益増加。国内で製品を生産して海外に輸出するため、外貨建て価格を円換算した際の売上利益が増加。対米ドルで1円円安になると年間約20億円の営業利益減少。商品の9割を中国やベトナムなど海外で生産し、ドル建てで決済している影響が大きい。対米ドルで1円円安になると年間6億円の営業利益減少。石炭や原油、チップなど紙類の原材料コストが上昇し、さらに売上の8割近くが国内であることが影響。(注)各社報道等、日本経済新聞(パルプ・紙)93.820.912.66.3オプション7.24.7その他約30%5.6%12.5%約50%33.3%43.8%ほぼ100%50.0%31.3%20092013約50%ほぼ100%2017その他その他11.1%12.5%(円/ドル)13513012512011511010510019/04想定為替レート市況レートフォワード・為替スワップ通貨スワップ12.5(%)60504030201001か月3か月(注)市況レートは東京市場、スポット、17時時点。(注)複数回答可、全規模2022年度想定為替レート:111.9円オプション半年それ以上(図表5)主要企業の為替感応度の例(図表4)想定為替レートの推移(図表9)為替デリバティブ取引の推移(兆米ドル)10864202000200120032002200420052006200720092008201020112012201420132015201620172018202020192021(注)外国関連為替取引における対非金融機関顧客の想定元本ベース残高。想定元本とは、デリバティブ取引で実際に受け渡しするキャッシュ・フローを計算するために利用される仮想の金額を指す。(図表10)主なリスクヘッジの期間200920132017大臣官房総合政策課 馬塚 元希/島谷 薫乃本稿では、為替変動による企業収益への影響と為替リスク対策の現状について考察する。コラム 経済トレンド96 52 ファイナンス 2022 Jun.為替変動による企業収益への影響企業の為替ヘッジ(1)企業の為替感応度と為替ヘッジ

元のページ  ../index.html#56

このブックを見る