ファイナンス 2022年6月号 No.679
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5おわりに本稿ではFF金利先物の制度や利上げ確率の考え方を説明しました。次回は中央清算機関や証拠金規制を中心にOTCデリバティブ規制について説明する予定です。*25*26[6]. ダロン・アセモグル, デヴィッド・レイブソン, ジョン・リス[2]. 服部孝洋(2021)「リスク・フリー・レート(RFR)入門−TONA,TORF,OISを中心に−」『ファイナンス』12月号、14–24.*25) CBOTをCMEに統合するのではなく、CMEグループの傘下にしている理由として、オペレーション上の安定性等を考慮したことが考えられます。*26) WIRPにおいて豪州では30日銀行間金利先物に基づき利上げ(利下げ)確率が計算されています。ちなみに、30日銀行間金利先物のティッカーは参考文献[1]. 服部孝洋(2020)「日本国債先物入門:基礎編」『ファイナンス』1月号、60–74.IBAになります。CMEがプレゼンスを上げた一因として、早い段階からシステムの開発に着手した点が挙げられます。CMEは1980年代にコンピューター取引システムであるグローベックスを立ち上げましたが、取引所の取引においてコンピューターを導入したのはCMEが初めてです。先物取引は、もともとは場立ち(オープン・アウトクライ)と呼ばれる人々を介した取引が主流でした。2000年以降システム投資が進み、海外の取引所が米国の先物市場のシェアを奪おうとする動きもあったのですが、CMEは早い段階でシステム投資をしていたこともあり、その競争の中でプレゼンスを拡大することが可能になりました。CMEの戦略において看過できない点は2000年に株式会社化した点です。従来CMEは会員組織であり、その形態は意思決定が遅いことに加え、資金調達を困難にするという問題を有していました。そこで、CMEは株式会社化し、それ以降、M&Aを活発化させていきます。2007年にCBOTを買収することで、本稿で取り上げているFF金利先物は、現在はCMEグループの商品になっています(CMEグループは4つの指定契約市場(Designated Contract Market, DCM)を有しており、CBOTはその一つです*25。FF金利先物は現在、CMEグループのCBOTが取り扱う商品です)。CMEグループは、その後もM&Aにより拡大していくことになり、現在、世界最大の取引所となっています。CMEの詳細を知りたい読者はメラメド(2010)やOlson(2010)などを参照してください。[3]. 服部孝洋(2022a)「金利先物およびTIBOR入門―ユーロ円金利先物を中心に―」『ファイナンス』1月号、41–51.[4]. 服部孝洋(2022b)「SOFR(担保付翌日物調達金利)入門−米国のリスク・フリー・レートおよび米国レポ市場について−」『ファイナンス』3月号、28–37.[5]. 服部孝洋(2022c)「フェデラル・ファンド(FF)市場およびFFレート(FF金利)入門−金融危機以降のFF市場および最後の貸し手機能の変遷について−」『ファイナンス』5月号、10–20.ト(2019)「マクロ経済学」東洋経済新報社[7]. レオ・メラメド(2010)「先物市場から未来を読む」日本経済新聞出版[8]. Olson, E. (2010)“Zero-Sum Game:The Rise of the Worldʼs Largest Derivatives Exchange”Wiley.フェデラル・ファンド(FF)金利先物および利上げ(利下げ)確率入門 50 ファイナンス 2022 Jun.BOX 2 世界最大の取引所であるCMEグループFF金利先物は、シカゴ商品取引所(Chicago Board of Trade, CBOT)において1988年に上場した商品です。そもそも、CBOTは1848年に設立された米国で最も歴史が古い商品取引所です。一方、CMEは1898年に、バターと卵の取引所として創設されました。両者は競合関係であったものの、CBOTは長い間、世界最大の取引所の地位を維持していました。一方、CMEは長い間、主に肉(牛、豚、ベーコン)を取引する市場でしたが、CMEは1970年代における通貨先物市場とともに拡大していきます。BOX 3 世界の金利先物本稿では米国の金利先物にフォーカスしましたが、世界では様々な金利先物が活発に取引されています。欧州ではインターコンチネンタル取引所(Intercontinental Exchange, ICE)に上場をしているEURIBOR先物などが取引されています。本稿ではLIBORの公表停止に伴いユーロドル金利先物がSOFR先物にシフトしていく点を指摘しましたが、欧州では金利指標改革の結果、英国およびスイスではSONIA先物やSARON先物が上場しています。また、WIRPで豪州の利上げの確率は金利先物のみ計算しているとしましたが、豪州では30日銀行間金利先物などが上場しています*26。本稿では紙面の関係上、これらの詳細は省きますが、各国の金利先物の概要については金融先物取引業協会の「海外金融先物市場の主要金融先物・オプション商品の概要」などを参照にしていただければ幸いです(前述のとおり、BloombergでWIR GOと叩くと世界で取引される金利先物の一覧が見られます)。

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